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【日本】内水氾濫を対象とした避難勧告等の基準に対する考察(静岡県Y市のケース)

こんにちは。渡邉です。

今日も避難勧告を考えるシリーズで、事例として取り上げるのは静岡県Y市です。議論の対象は内水氾濫の避難勧告等の基準に絞ります。

Y市は平成24年5月に「避難勧告等の判断・伝達マニュアル」を策定しており、以下の基準はその中からの抜粋です。

Y市では、外水氾濫(河川の増水による洪水)の場合は浸水想定に基づいて避難が必要な地域をリストアップしています。一方、内水氾濫については「市内各所で局地的に発生する可能性」があるため、「事前の予測は困難」と述べています。

このことを踏まえたうえで、実際の基準を見てみましょう。論点として挙げる部分には分かりやすいように下線を付けています。
【避難準備情報】
1. Y市に大雨(浸水)洪水警報が発表され、道路の冠水が始まり、さらに浸水深の上昇が予想される場合
2. Y市内において時間雨量50mm以上の降雨が観測され、かつ2時間雨量が100mmを超えると予想される場合 
【避難勧告】
深さ30cm以上宅地浸水が発生し、さらに浸水深の上昇が予想される場合 
【避難指示】
深さ50cm以上宅地浸水が発生し、さらに浸水深の上昇が予想される場合
これらの基準に関しては、以下の論点が考えられます。

■論点1:道路の冠水が避難準備情報のトリガーとなっていることについて
・避難準備情報の基準1を要約すると、警報が発表された状態で道路の冠水という影響が確認され、さらに悪化する予想であれば避難の準備を呼びかけるものです。
・「道路の冠水」に関して、「どこの道路か」という問題があります。
・内水氾濫は市自らがが前提として触れたとおり「局地的に発生する可能性」があるわけですが、全ての道路の状態をリアルタイムで把握することはおそらく困難なため、各道路の被害状況を把握するという面でまず課題があります。
・「道路の冠水とその悪化の予想」が避難準備情報の発表条件ですので、避難準備情報が発表された時には一部の道路又は地区の内水氾濫がすでに発生している状況下での避難準備の呼びかけになります(この点は論点2に続きます)。
・避難準備情報の基準2に「市内で時間雨量50ミリ以上の観測」という条件がありますが、この雨量を観測した時点でもおそらく道路冠水が発生しています。

■論点2:確度の高い予想があっても動けない点
・ケースバイケースですが、「この先50ミリ以上の降雨が1時間以上続きそうだ」ということを大雨となる直前もしくは大雨が降り始めた直後に予測できる場合があります。
・こうした情報が市に伝えられたとしても、論点1のとおり、道路が冠水して初めて(あるいは道路が冠水するような時間50ミリの降雨を観測して初めて)避難準備情報の発表条件の一つが満たされるという制度設計のため、確度の高い予測に基づいて迅速に対応するという選択肢が排除されています。

■論点3:誰が深さ30㎝・50㎝の宅地浸水を測るのか等の点
・避難勧告・避難指示は「宅地浸水の深さ」を基準の1つにしています。
・内水氾濫が「局地的に発生」するとすれば、被害が発生している所とそうではないところの差が大きいことが予想されますが、このような時に、(1)被害が最大となっている所がすぐに特定できるのか、(2)誰が浸水深を測るのか、(3)どこの面を基準に測るのかという問題などがあります。
・また、「宅地浸水」というのがいわゆる床下浸水・床上浸水なのかもしれませんが、深さ30cm・50㎝は住宅街の道路面からの深さを指しているのかもしれません。
・このあたりはマニュアルを見てもはっきりしません。

■論点4:浸水深の上昇を判断する困難さについて
・一般論としては1時間雨量が多かったり、総雨量がまとまれば浸水深の上昇が考えられます。
・しかし、具体的な地域の浸水深悪化をもたらす雨量が何mmかということになってくると途端に答えるのが難しくなります。
・分かりやすい雨量(例えば時間100mm近い雨量)であれば判断は難しくないですが、中途半端な雨量(例えば時間10~20mm)が予測される場合にどう対応するか等、難しい判断が迫られることが想定されます。

以上がY市の基準に対する論点の指摘になります。

愛知県A町から始まり今回で2例目ですが、こうした基準を作るときは、気象予報の現場レベルからのアドバイスを受けた方がいいものが作られていくのではないかという感触を得ています。

(「【日本】記録的短時間大雨情報を避難勧告のトリガーにしたケースの考察(福井県S市)」に続く)