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公開されていない貴重なデータが生む機会ロス:湛水型の内水氾濫を例に

本来であれば役立つデータであっても、公開されず表に出ないことがある。その例の一つが、どこで湛水型の内水氾濫が発生するかということだ。 湛水(たんすい)型の内水氾濫とは、河川の水位が上昇した場合に住宅街から排水できなかったり、川の水が下水を通じて逆流したりするために発生するタイプのものである。 湛水型の内水氾濫の説明。 発生場所については定性的な記述しかない(気象庁の 資料 より) 湛水型が起こりやすい場所については「堤防の高い河川の周辺に限定」というのが気象庁の説明だが、具体的にどこなのか。住民視点で知りたいのはそこだ。 この「どこが?」という問いに答えるような情報はすでにあるはずだ。 湛水型の内水氾濫の危険度を示す情報が「洪水警報の危険度分布」だが、この情報を準備する際に「過去25年分以上の湛水型の内水氾濫をくまなく調査」したと気象庁は述べている。 洪水警報の危険度分布についての説明(気象庁ホームページより) 気象庁は基本的に全ての自治体を対象にこうした分析を行なっている。気象庁が「くまなく調査した」結果は地域の防災カルテのようなものである。専門家が分析した知見でもあり、25年というある程度の時間的な幅もある。 気象庁が行なった分析結果は、湛水型の内水氾濫に対する啓発やいざという時の防災行動に活かされるべきものだ。このため、今後公開されていくことが望まれる。 今回は湛水型の内水氾濫を例にあげたが、本来であれば役立つデータであっても、表に出していないために機会ロスとなっているものが他にもあるだろう。そうした死蔵されている情報の洗い出しと活用が重要な課題である。

「地形から学ぶ災害危険性」は便利だ

国土地理院が作成した「 地形から学ぶ災害危険性 」という資料が面白い。 洪水編、内水編、土砂災害編、津波編、高潮編の5つのテーマで 地理院が持っている情報の見方を簡潔に伝えている。 「災害の可能性は地形を見よ」と防災の専門家が指摘することがあるが、 そのハウツーの基礎として十分な資料だろう。 実際に洪水や内水、土砂災害や津波、高潮が起こりそうな時に 何の情報が出されるかという面もあれば、防災対策の中で より役に立つコンテンツとなると思われる。

危機の中の動画によるコミュニケーション(オランダの例から)

オランダでは新型肺炎の感染者が急拡大し、 通常のICUのベット数では対応しきれないといっていた危機の時にも 環境衛生の研究所(政府にアドバイスする立場の機関)は 様々な動画を作成して国民に情報提供を図っていた。 https://www.facebook.com/pg/RIVMnl/videos/?ref=page_internal 「よくぞこれだけ」という印象を受ける。 日本ではリスクコミュニケーションのために ここまで手が回らないだろう。 非常時の中でも情報を伝えることに人や資源を配置する。 それができるか否か。 それは平常時からの体制やコミュニケーションを 重視するかという姿勢にかかっていると言えるだろう。

個人を出発点とするリスク情報への切り替えを

今までの日本の防災行政では、自宅が災害に巻き込まれて危険かの 読み取りや判断は住民に任せてきた。 「洪水ハザードマップの中から自宅や自宅周辺の浸水深を読み取り、 各自の事情や家の構造などと照らして避難の必要性を判断してほしい。」 言ってみればそれが行政からの働きかけの柱である。 内閣府による「避難行動判定フロー」(下図)もこの一種だ。 地域のレベルで情報を提供し、実質的な判断は個人に委ねている。 しかし、新型コロナウィルス肺炎の蔓延を受け、 避難所へ集まる避難者の抑制が急務だ。 広域避難の文脈では、浸水区域内での垂直避難者や 浸水区域内から、自治体内の浸水しない区域への避難者をのぞいて 広域避難対象者を絞り込むという考え方も出ている(下図)。 いずれの場合も、避難者数絞り込みの実質的な成否は 個人の理解力によるのだが、何とも心もとない。 これまで自治体はハザードマップなどで面的な情報を伝えてきた。 これを改め、個人に対してもっと個別にリスクを伝えるべきではないか。 ・洪水が発生するとあなたの家はどこまで浸水するか? ・どの程度の時間浸水するか? ・家で垂直避難が可能なのか? ・家で垂直避難できるときは何を想定しておけばよいのか?  ・避難先としてシナリオごとにどこが考えられるか 少なくとも上のようなことを事前に伝えておく必要がある。 ポイントは具体的であること、目線が個人単位であることだ。 「面」ではなく「点」の情報を伝えなければならない。 「点」の情報提供は海外ですでに前例がある。 オーストラリアのブリスベンでは 住所単位で浸水のリスク情報を 前もって伝え 、 水害が発生しそうなときにも住所単位で 浸水予測を出す 。 これだと危険が迫る時に具体的に何をすべきかが分かる。 河川の特性などが異なるので、オーストラリアのやり方を そのまま日本に当てはめることには無理もあろう。 しかし、コミュニケーションの発想法からは十分学ぶことができる。 オランダでは住所を入れれば最大の浸水深と発生する確率のほか、 どのような状況に直面するか、災害時に何をすべきかなどが 分かる サイト もある(下図)。 日本にも「 重ねるハザードマップ 」があ...

「こんな被害が出るのなら、もっと具体的に伝えておいてほしかった」をなくす予報。相次ぐ台風や豪雨災害に備え、避難行動を後押しするインパクト予報の充実を!

2019年台風19号で被災された方に心よりお見舞い申し上げます。 今回の台風も災害情報のあり方について多くのことを考えさせられました。その中の一つが、事前に危険を示す情報が気象庁から出されていても、なかなかその危機感が情報の受け手と共有されないという課題です。 2019年は大雨警戒レベルの話が導入され、気象情報や防災情報の出し方が見直された年でした。気象や防災に関係する私たちは、情報の中で見ているこの先の危機を伝えることができているでしょうか。 危機を専門外の人にもありありと見せること。これが今こそ求められています。そのための一つの近道が、気象現象そのものではなく、影響を伝えるインパクト予報の充実というものにあると私は思います。 インパクト予報の充実を気象庁の方で進めてもらうため、Change.orgという署名を集めるプラットフォームで 署名キャンペーン を行なっています。署名がたくさん集まったら気象庁長官に届けたいと思います。 ご関心ございましたらシェアやご署名のほど、どうぞよろしくお願いします。 図をクリックしていただくとキャンペーンページが開きます -----キャンペーンページからの転載--- ■キャンペーンのサマリー 日本の防災対策の問題の一つに、気象台が繰り返し台風や大雨の危険性を訴えても、逃げ遅れや気づかないまま災害に巻き込まれるということがあります。気象情報で危険が伝えられても人はなぜ動かないのでしょうか? その理由の一つには、予報や気象台が使う言葉がわかりづらいからではないかと思います。例えば普通の人は「 最大風速30メートルの暴風 」や「 1時間雨量で80ミリ 」と聞かされても、ほとんどの場合ピンときません。 逆に、「 暴風で建物が倒壊する可能性がある 」、「 道路冠水が起こって交通障害が発生する 」という 影響 を伝えられた方がこの先どうなるかが分かりやすいです。こうした 影響を伝える新しいタイプの予報 は インパクト予報 と呼ばれます。 インパクト予報はすでにアメリカで運用されており、日本でも発表することが十分できるのですがその重要性は見過ごされています。 そこで、このプロジェクトにご署名をいただくことにより、私たちは インパクト予報を必要としているという声を気象庁長官に届けたい と思います...

【オーストラリア】具体的な行動指針まで伝える警報文の例(山火事のケース)

■はじめに  日本の防災情報の弱いところを一つ挙げるとしたら、行政からの避難メッセージの内容だと私は思います。避難勧告などの発表時でも伝えられることはごくわずかで、よくあるパターンが発表事実をメインにしたものです。 目を海外に向けてみると、日本の行政が出す情報と量や質に大きな差があることが分かります。その違いを明らかにするために今回ご紹介したいのは、オーストラリアの山火事に対する情報発信の例です。 ■ライン上に進む山火事 オーストラリア・クイーンズランド州当局の情報をご紹介する前に、現地の山火事がどう展開するかをまずは動画でご覧ください。0:22秒のところから空撮映像が流れます。そこには火災が線状になって発生している様子が映し出されています。 オーストラリアに滞在していた時に現地の人から初めて聞いた時は驚いたのですが、山火事で逃げ遅れた時にはこの火災のラインが家の周りを通過するまで安全なところにいるという方法があるそうです。このことを頭に入れながら、クイーンズランド州火災・緊急サービス(QFES)が発表した実際の予報文をご覧ください。 ■2019年10月8日に発表された山火事警報 以下の訳は筆者による仮訳です。太線部は原文( こちら )に対応しています。日本に比べて優れていると考えられる点に関して、赤字で補足コメントをつけました。 ---- 今すぐ退避:Townson(Glen Rockの山火事関連)10月8日火曜日午後2時25分現在 メディアへの注意事項: QFESはメディアに対して本情報の対象地域に放送を行う際には、このメッセージ内容とともにスタンダード警報シグナル(SEWS)を用いてください。 →SEWSは緊急時に流されるメディア共通の警報音で、実際の音は こちら から視聴ができます。テレビやラジオなどを通じて重要なお知らせの前には住民はこの音を耳にすることになります。 山火事の警告レベル:緊急警告 クイーンズランド火災・緊急サービス(QFES)より、山火事がTownsonに接近していることをお伝えします。これから先、車の運転を行うには危険な状況になるため、 今すぐ退避 することが一番の安全策です。 →緊急警告の情報が発表されたことだけではなく、危機に対応するためにいつ・何をすべきかまで簡潔に伝...

【オランダ】オランダの小学生が参加した「波に負けない砂山作り」のイベントが面白い

こんにちは。渡邉です。 今日はオランダの防災・環境教育について書いてみます。 オランダは水との何世紀にも渡る格闘の中で国土を作ってきた国です。このオランダが一番恐れている水害は北海からの高潮によるものです。 1953年にオランダ南部で大規模な高潮被害が発生し、1800人以上が犠牲になるという災害が起きました。これを契機に国を挙げた治水計画(デルタプラン)が動き出し、堤防や高潮用のバリアなどが張り巡らされ、オランダでは1953年の災害以降、水害で人命は失われていないとのことです。 海面上昇の見込みや地盤沈下により高潮は今後も大きな課題とされていますが、治水インフラが高度に整備され、すでに半世紀上大規模な水害が国内で発生していないため、人々の災害に対する意識が逆に低いというパラドックスがあります。 このため、水関係の当局は様々な機会を通じて住民の危機意識の向上に取り組んでいます。 その一環として開かれたのが今日ご紹介するイベントです。以下の写真をご覧ください。 これは、2015年6月16日にオランダ国内の8つの小学校が参加して行われた"The Battle of the Beach"という催しの一コマです。子どもたちが海辺で美しい砂の城を作って競い合うというイベントではなく、満ちてくる潮に対して抵抗力の高い砂山が作れたら勝ちというルールです。 工夫を凝らして砂山を守る小学生のチーム(出典は こちら ) 波にさらわれていく砂の城を見て驚く子どもたち(出典は こちら ) 海に近いところに幾重にも堤防を築いたチームもありましたが、どの砂山もすべて波に洗われ跡形もなくなって行くのを見て、子どもたちは視覚的に波の力や堤防の重要性を学んだとのことです。 The Battle of the Beachのホームページ( こちら )には去年のイベントの動画がありますので以下に引用しました。楽しいイベントの中でオランダの防災の根幹に関わる重要なことをさりげなく学べるようにしている所が非常に興味深いと言えるのではないでしょうか。 The Battle of the Beach (関連記事) 【オランダ】子どもも大人も体験を通して河川管理を身近に http://www.wpcd.jp/2014/...

【オーストラリア】冠水した道路の危険性を伝えるドライバーに伝える際の工夫点

こんにちは。渡邉です。 道路が冠水しているところに車が進んでいき、犠牲者が出るということはオーストラリアでもしばしば起こります。 クイーンズランド州政府は"If it's flooded, forget it"というフレーズを用いて道路冠水の危険性を呼びかけています( こちら のページです)。 以下はそのキャンペーンの一環で州政府広告として放送されたものの動画です。「夏に買ったばかりの2.5トンの新車は何でもできると思っていたが・・・」という内容です。起承転結がはっきりしているので、英語が聞き取りづらくても見ていると流れが分かります。 この人の話が本当にあった話かどうかは別として、全体のトーンとしては押しつけがましい説教のようなスタイルを巧みに避けながら道路冠水に向かっていくことの危険性を伝えようとしている好例だと思います。

【日本・オーストラリア】各気象機関のtwitterアカウントの運用方針とその類似点・相違点

こんにちは。渡邉です。 気象庁は2015年1月28日、twitterで情報発信を始めました。 気象庁の最初のツイートです 気象庁のtwitterアカウントの運営方法について、毎日新聞がツイッター上の批判の声を紹介しながら記事を出したのが運用開始から1週間を過ぎた2015年2月5日のことです。記事のタイトルは、「気象庁ツイッター:『やる意味なし』防災情報なく批判次々」というものです( こちら の記事です)。 ちょうどこの日、オーストラリアの気象庁(Bureau of Meteorology:BOM)は職員のトレーニングが整ったとして、パイロット的に進めていた3州(準州を含む)のアカウントに加え、全国版と残り5州(準州を含む)のtwitterアカウントを公開し情報発信を始めました。 BOM(全国版)の最初のツイートです ほぼ同時期に運用が開始された日本とオーストラリアのtwitterアカウントの運営方針を見比べてみると共通点や相違点があります(運営方針に関する原文は参考資料として引用しています)。 最も類似性が高いのは、両者ともツイッターでの情報発信を通じて公式HPに誘導することを目的としている点です。言いかえれば、重要な情報への入り口としてtwitterを位置付けていることになります。 逆に運営面で異なるのは以下の点です。 1.アカウントの数 JMA:全国で1つのアカウント BOM:公式アカウントが州のBOM事務所及び本庁の計9つ 2.ツイート内容の取り決め JMA:「報道発表」のツイッター上での広報という二段方式 BOM:上記のような縛りはなし 3.災害情報の扱い方 JMA:報道発表に該当する災害ではない場合、ツイッター上で発表がない BOM:嵐、サイクロン、暴風、洪水、津波、熱波等が見込まれるときには情報発信が行われる といったところです。 両者とも動き出したばかりのアカウントであるため、これからそれぞれがどのように展開されていくのかに引き続き注目したいと思います。 ------------ (参考資料) ■BOMの運用方針(出典は こちら のページです) The Bureau of Meteorology is now active on...

【天気のトリビア】「明日は30%の降水確率」の理解に関する国際比較

こんにちは。渡邉です。 今日はまずクイズからスタートします。 「明日は30%の降水確率」と聞いて、みなさんはどのように理解されますか?次の3つの選択肢から選んでみてください。 1.時間的に見て明日の30%ぐらいが雨 2.対象地域の30%ぐらいが雨 3.明日のような日々のうち、30%が雨 実はこの質問と選択肢は2005年に発表された学術論文*1から引用したものです*2。 表現の仕方が若干分かりづらいので後半部分で説明しますが、正解としては3です。 ちなみにこの学術論文ではアメリカとヨーロッパの各都市でこの質問を人々に投げかけ、正答率の国際比較を行いました。 下のグラフの黒がTime(「時間」であり選択肢の1。不正解)、灰色がRegion(選択肢2の「地域」で不正解)、白がDays(選択肢3の「日々」で正解)を示します。 調査が行われた都市(グラフの左からニューヨーク、アムステルダム、ベルリン、ミラノ、アテネの順)の正答率を示した下記のグラフを見ますとニューヨークは比較的高い反面、アムステルダムのように「30%の降水確率」を時間的な意味ととらえている割合が高い都市があることなどが分かります。 30%の降水をどうとらえているかの比較グラフ*1 さてみなさんは冒頭のクイズで1~3、どれを選択されましたでしょうか? 降水確率については日常の天気予報でよく見聞きする半面、最も正答率の高かったニューヨークでも3割強が誤った理解をしているなど、誤解が生じやすい情報でもあります。 降水確率に関する日本の気象庁の説明を引用すると以下のとおりです*3。 a)予報区内で一定の時間内に降水量にして1mm以上の雨または雪の降る確率(%)の平均値で、0、10、20、…、100%で表現する(この間は四捨五入する)。 b)降水確率30%とは、30%という予報が100回発表されたとき、その内のおよそ30回は1mm以上の降水があるという意味であり、降水量を予報するものではない。 上記のb)の説明を言いかえると、同じような気圧配置が100回あった場合、そのうち約30回は1mm以上の降水となる可能性があると言っていることとなります。気象庁も子ども向けの情報*4ではこれと同じような説明をしています。 質問:降水確率はどうやって出すの?...

【日本・アメリカ】社会と気象学の新しい関わり方について

こんにちは。渡邉です。 今日は「気象」をめぐる世の中の動きを俯瞰してみたいと思います。 ここ数年、気象現象をわかりやすく世の中に伝えて、防災や暮らしに役立てていこうという流れが加速してきたと私は感じています。 若手の気象学者が集い、「第3回気象気候若手研究者交流会~若手の視点からアウトリーチ・科学コミュニケーションを考える~」という会を持ったのが2013年3月のことで(報告書は こちら )、その後、一般読者を対象とした気象関係の入門書が数多く出版されてきました。 例えば、荒木健太郎氏の『雲の中では何が起こっているのか』や、若手の研究者らの共著である『天気と気象についてわかっていることいないこと』などは新しいタイプの基本書であり、気象学的な知見を分かりやすい言葉で社会に還元するという意思が感じられます。 こうした気象学の社会への還元という動きは書籍上だけではなく、気象サイエンスカフェ( http://meteocafe.blogspot.nl/ )というイベントであったり、気象予報士が中心となって今日からスタートした「お天気のタネ」というインターネットラジオ( http://radivision.net/program/tentane/ )であるなど、様々な方法で行われています。 ちなみにアメリカの場合、気象学会(American Meteorological Society)が年4回、"Weather, Climate, and Society"という学会誌を発行しています(詳しくは こちら )。その学会誌の紹介をホームページから引用すると以下のとおりです。 Weather, Climate, and Society, a quarterly journal of the American Meteorological Society, publishes scientific research and analysis on the interactions of weather and climate with society. The journal encompasses economic, policy, institutional, social, behavioral, and international...

(新年の抱負)「防災意識の向上」「防災知識の普及」の一歩先へ

渡邉です。あけましておめでとうございます。 オランダの年越しは生まれて初めてでしたが、夜になって住宅街の至る所で花火が上がったり、爆竹が鳴ったりして、まるで騒乱状態でした。耳をすませば除夜の鐘が聞こえて・・・といった日本の風情とは全く違った年越しになりました。元日の朝は昨夜からは一転、静けさに包まれています。 さて、年の初めということで一年の抱負をまとめてみたいと思います。 今年は、Weather Plus Communication Designの仕事を通じて、これまでの日本の防災に関するアプローチに一石を投じたいと思っています。 「防災」というと、「災害に対する意識を高めましょう」といったものや、「情報を正しく理解しましょう」ということなどが繰り返し説かれます。 これらの背景には、 防災に関する知識を身につければ適切な防災行動がとられるはず・・・ 正しい知識が普及すれば、防災力が高まるはず・・・ 気象や水位に関する情報を提供すれば人は動くはず・・・ などの考え方(前提)があるわけですが、実際にはこれらの「期待」がその通りに実現することはまれで、なかなか思った通りの効果が上がらないというジレンマに防災啓発を担う国や自治体は直面しているのではないでしょうか。 例えてみれば念仏のような・・・ 確かに、防災に関する知識や情報を提供することは重要なことなのですが、それと同じかそれ以上に求められることがあります。それは、防災行動(究極的にはいのちを守るということ)に直結した形でアプローチを組みなおして、必要な知識や情報のある場所、そしてそれらの情報入手の仕方や読み解き方を伝えることです。 気象分野での防災で言えば、無料で手に入る気象情報が充実していますので、それをどの場面でどう使い、自分のいのちを守るためにどういかしていけるかという点を具体的に伝えた方が、ふわっとした意識啓発や断片的な情報提供よりも格段に効果的ではないかと考えています。 もっと直接的な効果をあげる方法があるはず 意識啓発や知識の普及という既存のアプローチから一歩先へと進んだ形で、防災分野に新しい地平を拓くのが今年の抱負です。 本年もどうぞよろしくお願いいたします。

【オーストラリア】エルニーニョ現象・ラニーニャ現象の発生予測をどう伝えるか

こんにちは。渡邉です。 昨日に引き続き、今日もオーストラリアの話題です。 オーストラリアの気象庁(Bureau of Meteorology/以下BOMと記載)は、気象情報のコミュニケーションという面から見て様々な実験的な試みをしています。 例えばオーストラリアをはじめ日本や世界の気候に影響を与えるエルニーニョ現象やラニーニャ現象の発生見込みについて、BOMのサイトでは矢印を使って示しています。 ラニーニャ、エルニーニョの予測を伝える矢印 (BOMサイトより*1) この図には全体で7段階あり、ラニーニャ現象、ラニーニャ現象警戒(alert)、ラニーニャ現象注意(watch)、中立(Neutral)、エルニーニョ現象注意(watch)、エルニーニョ現象警戒(alert)、エルニーニョ現象に分かれています*2。これらのうちのどこを指すかを見ることで、今現在の状況が瞬時に把握できます。最新の予想(上記の例)では、エルニーニョの発生に警戒するレベル(Alert)となっていることが分かります。 BOMがラニーニャ・エルニーニョ現象の予測をわかりやすく示すために矢印を使い始めたのは実は比較的最近のことで、BOMの2012~2013年の年次報告書で導入開始が報告されています*3。 ちなみに導入初期は現在とは異なった見せ方をしていました(下図参照)。2014年5月に ENSO Trackerとして導入された現行版と比べると矢印の示す角度の微妙な違いをどう解釈するかなど、読み取りが難しい部分があったと言えます。 矢印方式導入当初の例 (BOM年次報告書より)*3 一方、日本の気象庁のウェブサイトではエルニーニョ・ラニーニャ現象の予測を伝えるために以下のようなグラフが使われています。色分けや形で工夫が凝らされたグラフではあるのですが、一般の利用者に向けて分かりやすい情報を提供するという観点から見た場合、BOMが生み出した図の方がストレートに情報が伝わってくると言えます エルニーニョ/ラニーニャ現象の経過と予測 (気象庁ホームページから)*4 BOMの矢印の変遷を見ると試行錯誤の跡が見受けられるのですが、よりわかりやすいコミュニケーションを追求していることが...

【日本】インターネット時代の実践的な防災教育とは

こんにちは。渡邉です。 特集記事「気象情報の利用特集」の中でも触れましたが、昨今の集中豪雨による土砂災害の多発などを受け、国土交通省は「新たなステージに対応した防災・減災のあり方に関する懇談会」を設置し、専門家を交えて今後の防災対策を話し合っています。共同発の新聞記事*1によると、平成26年11月26日に第3回目の会合が行われ、報告書がまとめられました。 報告書の概要についての記事を引用すると、今後は「行政の勧告を待たずに住民が主体的に避難する社会を目指すべき」であり、「住民の意識を高める」ため、「子どもの防災教育を充実するほか、最大クラスの雨が降った場合の被害想定を策定、公表するなど」が盛り込まれているようです*1。 現時点で第3回目の会合の議事録や報告書が公開されていないので*2、詳細なコメントは本来時期尚早かもしれません。ただ、このブログで今まとめている「気象情報の利用特集」とこの議論が密接に絡んでいるので今回取り上げました。 「行政からの情報を待たずに住民が主体的に判断する」というのは実際にはそのとおりだと思います。ただ、これを達成するための手段が「子どもの防災教育や被害想定の策定・公表」しかないと考えているとしたら、それは問題に対する処方ミスの可能性があります。 なお、上記の懇談会の事務局が作る資料を見ていると、問題のとらえ方そのものにも一定のバイアスがかかっているように見受けられます。第3回懇談会の資料に報告書の素案があるのでそれを見てみますと、「はじめに」(p.2)に興味深い記述があります*2。 大量の情報を容易に入手できるインターネット等が普及したことにより、自ら情報を分析する能力が低下し、各種マニュアルが整備された結果、マニュアル偏重で自ら判断する能力も低下する等、明らかに人が災害に対して脆弱になっている。  インターネットが普及→大量の情報が入手できる→分析する能力が低下→マニュアルも整備されている→マニュアル通りのことしかできない→自分で判断できず災害に対して脆弱、といった議論です。 果たして、そうでしょうか? 私の見立てとアプローチは上記と全く異なります。 インターネットなどで大量の情報が入手できるから、人は情報分析の能力が低下したわけではありません。そうした情報を使いこなす方法がこれまで伝えられ...

【オーストラリア】緯度経度から「○年に1度の雨」の雨量が分かります

こんにちは。渡邉です。 特集記事の中で、「○年に1度」の降雨について紹介しました。日本の気象庁のウェブサイトでは、市町村単位で3時間と38時間の間に降る「50年に1回」雨量が分かります( こちら の回です)。 一方で、オーストラリアの気象庁のサイトでは、緯度経度を入力するとピンポイントで「○年に1度」の降雨が検索できます。こちらのサイトです。 http://www.bom.gov.au/water/designRainfalls/revised-ifd/ 「○年に1度」の雨量が緯度経度で分かるシステム (Bureau of Meteorology(BOM)) 緯度と経度を入れると、下記のような形で1分から168時間まで、単位時間当たりのAEP(Annual Exceedance Probability)が入手できます。 AEPと「○年に1回」(Average Recurrence Interval (ARI)) の置き換えに関する詳細は註で紹介しますが*1、AEP1%は「100年に1回の雨」、2%は「50年に1回の雨」、5%は「約20年に1回の雨」、10%は「約10年に1度の雨」、20%は「約5年に1度の雨」といった形です。 Brisbane Airportの緯度経度を入力した例 (BOM) 上記の表はグラフでも参照できます。ある大雨が降った時に、降り始めからの時間と観測雨量をこのグラフにプロットしていけば、その雨が何年に1度の雨に相当するかが一目瞭然で分かります。 Brisbane Airportの結果がグラフになったもの(BOM) オーストラリアの平均雨量は沿岸部、内陸部によって大きく異なります(下図参照)。このため、AEPの値も場所によって様々です。 オーストラリアの平均雨量(BOM) 試しにエアーズロック近辺のAlice Springsの値とグラフは以下のとおりで、雨が比較的多い東海岸のブリスベンとは「大雨」の量がかなり違っていることが分かります。 例えば100年に1回の雨量(AEP 1%)についてみると、アリススプリングスは1時間で6...

【地域の弱さを知る vol.6】過去の災害の情報はいきた情報となっているか

こんにちは。渡邉です。 昨日書いたブログ(リンクは こちら )では、過去の災害をアメダスのデータから 検索する方法をお伝えしました。なぜこれが必要かというと、 過去に災害が発生した時の雨量が、今後の災害に備える際に目安となるからです。 将来の災害へ備えるための示唆を与える過去の災害。 今日はこの情報が自治体でどのように扱われているかをまとめます。 ---------------------------- ■過去の災害の情報はいきた情報となっているか ここまで、過去の災害を調べることの重要性を述べてきました。過去に何が起こったかを具体的に把握することが将来への備えにつながるからです。 自治体も過去に何が起こったかに着目しており、災害マップなどでそうした情報をまとめています。 例えば岐阜県郡上市の場合、過去に発生した土砂災害の場所を地図上に示しています*1。口大間見自治会の土砂災害ハザードマップの一部を抜粋して紹介します。 郡上市土砂災害ハザードマップ(抜粋) 地図上の危険個所には吹き出しが付けられ、補足説明として以下のような情報があります(下線は筆者がつけたもの)。    ・ 過去 に 大雨 で水があふれ冠水した。    ・ 過去 に 大雨 で河川があふれそうになった。    ・ 過去 に土砂の流出があった。    ・ 過去 に 大雨 で水があふれ冠水した。 など この例を踏まえたコメントに移る前に、もう1例程挙げてみます。 埼玉県さいたま市は、「さいたま市浸水(内水)防災マップ」をホームページ上で公表しています。このマップで表されている情報は、「近年10年間(平成13年度から平成22年度)の間に市民の皆さんから通報があった浸水情報をもとに、地形情報を考慮して設定」されたものです*2。 これも実例として岩槻区版の一部を抜粋してみたいと思います。 さいたま市浸水(内水)防災マップ(抜粋) さいたま市の場合、地点ごとのコメントはありませんが、色で浸水深が表されています。 郡上市やさいたま市がまとめたように、「過去に何が起こったのか」という情報は、地域の災害に対する弱さ(脆弱性)を知る手がかりになります。ただし、具体性の欠...

【オーストラリア】個別住居の洪水リスクに関するレポートが簡単に手に入る利点とは

こんにちは。渡邉です。 特集記事 を3日間続けましたので、今日は気分転換として、 水害の危険情報を伝える方法について、オーストラリアの事例をもとに 紹介してみたいと思います。 さて、特集記事を書く際に引用した国土交通省の「新たなステージに対応した防災・ 減災のあり方に関する懇談会」の第1回懇談会の資料(資料3「欠席委員からの意見について」)を 見ていましたら、以下のような指摘がありました。 「水害のリスクがある場所に住んでいる住民も、その危険がわかって住んでいるのであればまだいいが、全然わかっていない住民もいる。土地・建物の取引時にそういった情報の周知を徹底させることが必要ではないか。」 ※引用資料のダウンロードはこちら http://www.mlit.go.jp/river/bousai/stage/01-03.pdf   この点に関して、ブリスベンの事例が参考になりますのでご紹介します。 ブリスベン市のホームページでは、任意の住所を入力すると、過去の水害情報や 河川の増水レベルの発生確率が分かるサービスを提供しています。 このサービスは"FloodWise Property Report"と呼ばれていて、無料で利用することができます。 ※リンクはこちら http://www.brisbane.qld.gov.au/planning-building/planning-guidelines-tools/online-tools/floodwise-property-report 上記のページに住所を入力すると直ぐに結果が分かります。 以下に、ブリスベン市内の何か所かの住所を入れたものをご紹介します。 住所にはgoogle mapのリンクをつけました。なお、例として挙げるいずれの場所も 筆者が土地勘がある場所から選んだのみで、ブリスベンを代表する場所と いった意味合いなどはありません。 棒グラフで表されたものは、1年のうちに何パーセントの割合で表示されている 水位に達する可能性があるかというものです。オレンジ色のグラフは2011年の 洪水時の浸水深です。緑色のものはその場所の土地の高さを示します。 --------------------...

【フィリピン・オーストラリア】「津波のような高潮」と「内陸部での津波」

こんにちは。渡邉です。 昨日の ブログ では、2013年の台風30号(ハイヤン)を例に、高潮について紹介しました。 高潮と津波は発生の原因が異なります。前者は気象条件によってもたらされますが、 後者は改めて指摘するまでもなく地震が原因です。 こうした根本的な違いがあるのですが、「津波(tsunami)」という言葉は しばしば「高潮」や「洪水」と関連付けて扱われます。 例えば、ハイヤンの報道*1を見てみますと、「津波のような高潮」 ( a tsunami-like storm surge)という言葉が出てきます。 また、オーストラリアのクイーンズランド州の内陸部にあるトゥーウォンバ(Toowoomba)で 集中豪雨によって2011年に起こった急な洪水は、「内陸部の津波」(inland tsunami)として 現地メディア*2で報道されました。 内陸部での津波と表現した報道ページ この、「内陸部の津波」という言葉はオーストラリアで広く受け入れられ、 例えば増水の様子を個人で記録したYou Tube動画のタイトルにもなっています*3。 この他、「内陸部の津波」という言葉は、洪水の原因等を究明するために クイーンズランド州政府が設置した委員会でも引用される*4など、 公の場で言及されたこともあります。 これら「津波のような高潮」や「内陸部の津波」は、用語の正確な意味からすれば グレーかアウトなわけです。 ただし、災害を伝える場面では、時として正確さを犠牲とした表現が求められるのも事実です。 フィリピンの台風30号・ハイヤンのケースでは、「『高潮(storm surge)』ではなく 『津波(Tsunami)』という形で避難が呼び掛けれていたとしたら、人々は高い場所へと避難し、 人的な被害が防げたのではないか」という指摘が地元の議員からなされています*5。 同様の指摘は、毎日新聞の「フィリピン:『津波』なら逃げた 言葉の壁、被害を拡大」という 記事でも報告されています。 その記事の要約によれば、「地元語やタガログ語に高潮を示す言葉が無く、 テレビ等で使用された『ストームサージ』の意味が的確に伝わらずに 避難しなかった事例が多く発生」したとのことです*6。 なお、被災...