2015年2月3日火曜日

【日本】「新たなステージとは何をさすのか」という疑問はどう防げたか

こんにちは。渡邉です。

昨年10月以降、国土交通省では防災などの専門家(委員名簿はこちら)を招き、「新たなステージに対応した防災・減災のあり方に関する懇談会」を計3回開きました。「新たなステージ」とは、昨今の豪雨災害で極端な現象が発生していることや、いつ大噴火が起こってもおかしくないことを指しています(以下の図を参照)。

国土交通省作成資料から
http://www.mlit.go.jp/common/001066500.pdf











懇談会での検討を経て、2015年1月20日に国土交通省は報告書を公表し、今後の対応の青写真を描きました(本文はこちらです)。

この、「新たなステージに対応した防災・減災のあり方を提案する」という国土交通省の試みは、皮肉なことに、そもそも「新たなステージとは何か」を巡って議論が錯綜するという経緯を経ました。

第3回(懇談会の最終回で、報告書の素案(こちらです)が提出された回)の議事録(こちらです)を見ると、その点について次のような指摘が委員からなされています。

・そもそも国民の皆さんがこれを読んでも新たなステージとは何をさすのかわかりません。最近、雨が多いことが新たなステージなのか、最大の外力により天変地異が起こることが新たなステージなのか、国民の皆さんが読んで、納得し、「なるほど、それじゃ、俺たちも行動しなくちゃいけない」と思ってもらえるように書いていただいたほうが結果として良いのではないでしょうか。(p. 8) 
・この素案では、「新たなステージ」の定義がはっきりしていません。「新たなステ ージ」とは我々が経験したことのないような激甚な現象だとイメージしていましたので、私の専門とする火山災害で言えば、カルデラ噴火以外にないと思っていました。しかし、そのことには全く触れておらず、最近 100年程度で我々が経験したような災害くらいのイメージでしかない気がします。ある程度の対応ができる、広域避難の対象となるような火山噴火のレベルで止まっています。(p. 9) 
・「新たなステージ」や「最大クラス」の定義をもう少しきちんと書かないと、一般の国民はわかりません。(p. 10) 
・「新たなステージ」については、これから何世紀も気候変動傾向が続き、かつ気象の極端化も起こることであり、不可逆的で今までのトレンドとは違うものだから、抜本的に見直すべきであるという論理でスタートしたと認識しています。たまたまそこに御嶽山が噴火したものだから、機を見るに敏な国土交通省が火山噴火を含めたことで、論理が交錯していると認識しています。 (p.11) 
・被災されている人たちの話やそこにいる災害対応者の声を聴くと「今までに経験したことがない」という前ふりが必ずつくので、そのような気象事象や、地震や火山噴火が頻発するようになる、ということが「新たなステージ」の受け止め方のような気がするのです。単に 30 年、50 年という人の人生の長さだけではなくて、科学的な観測結果や古文書等の記録も含めて調査した上で、そういう事態に立ち至っているのだということを書いていくと、「新たなステージ」を私たちにとって身近にしてくれる。(p.18) 
・「はじめに」のところで「新たなステージ」をもう少し詳しく言ったほうが良いと思います。2ページの下に「雨の降り方のステージが変わった」と書いてあります。要するにこれからは長期的な傾向として、雨量がどんどん増えていくということと同時に極端現象が起こって、短期間の気象現象が激しくなります。そのような書き方で、トレンドとして増えることとその振れ幅が非常に大きくなる2つの特徴があることを明記しておいたほうが良いと思います。 (p.20)

「さすがにこれは」と思ったのか、会議に参加した政務三役は終わりの挨拶で次のように述べました。
「国土交通省として、今日いただいたご意見もしっかりとこの中に含めて、しっかりスタンスを定め、どういう目的で、なぜこういうことをやるのか、そこのところをしっかりと討議して決めていきたいと思っています。」(p.20)
こうした議論を踏まえ、最終的な報告書(こちらの「はじめに」)では、「新たなステージ」を主に4点から述べています。

その4点とは、
(1)降水量や降雨パターンの変化による災害の激化
(2)「今まで経験したことがなかった」という被災者に共通する意見
(3)スーパー台風の例としてのフィリピンでの大型台風
(4)温暖化の影響見込み
です。

基本的には指摘された事項を網羅した形で収まりました(カルデラ噴火などの指摘を除く)。

なお、国土交通省の懇談会とほぼ同時期に動き始めた消防庁の検討会は、名称を「突発的局地的豪雨による土砂災害時における防災情報の伝達のあり方に関する検討会」としました。日本語的にもう少しこなれた表現があったのではないかという印象もありますが、狙いとしたところは「新たなステージ」よりもある意味分かりやすいと言えると思います。

もし仮に、国土交通省の懇談会のテーマとして「新たなステージに対応した防災・減災のあり方」という表現を使わずに、「極端な降雨や大規模な火山現象に対応した防災・減災のあり方」などとしておけば、議論の過程や成果についてもう少しクリアなものが出てきたのではないかと考えられます。