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【考察記事】避難勧告であなたが戸惑うのはなぜなのか?

東日本各地に大きな爪痕を残した2019年台風19号。自治体から伝えられた避難勧告や避難指示を受け取って戸惑ったという声も少ない。そうした戸惑いを引き起こす理由の一つは、自治体が発表する避難勧告のメッセージの中身にあった。 ――― 2019 年 10 月 12 日から 13 日にかけて台風 19 号が関東地方を通過し、東北地方の東海上に抜けた。台風の上陸前から各地で大雨となり、静岡県や関東甲信地方、東北地方にかけて土砂災害や河川の洪水が発生した。 台風接近や河川の増水などに伴って自治体からも避難勧告等が相次いで発表された。総務省消防庁の調べによると、最大で9都県210万人に避難指示が出されたという(毎日新聞の報道より)。 皆さんも、避難勧告や避難指示の発表を受けただろうか。 もしそうであれば、自治体からの発令を知らせる連絡を受け取った時のことを思い出し、自分にこう尋ねてほしい。そのメッセージは、「あなたの避難行動の判断に役立つような十分な情報が含まれていただろうか」と。 自治体が発令する避難勧告や避難指示(本記事では避難勧告や避難勧告等と表記する)はメッセージの内容面で弱みを抱えている。もっと分かりやすく言えば内容が薄い。本記事では、台風 19 号の際に実際に発表された避難勧告を例にしながらこの問題とその解決策を論じていきたいと思う。 江戸川区の避難勧告の問題点 東京都江戸川区も台風 19 号に関連して避難勧告を発令した自治体の一つだ。江戸川区はひとたび荒川や江戸川が決壊したり、高潮が発生したりすると区内のほとんどの区域が長期間水没することが想定されている。災害が発生しそうな時には「ここにいてはダメ」と区のハザードマップで呼びかけたことがこの夏、話題になったばかりだ。 その江戸川区は 10 月 12 日(土)午前 9 時 45 分に「新中川より西側の地域に避難勧告を発令」した。避難勧告の発令を実際に伝えた文が次のものである(江戸川区ホームページより抜粋)。 この避難勧告の主文を以下に抜き出したので注目してほしい。ここには重要な情報が欠けている。それは「なぜ避難勧告を発令したのか」という理由だ。この避難勧告では避難は呼びかけられるものの、何の危機が迫っているのかは一切伝え

「こんな被害が出るのなら、もっと具体的に伝えておいてほしかった」をなくす予報。相次ぐ台風や豪雨災害に備え、避難行動を後押しするインパクト予報の充実を!

2019年台風19号で被災された方に心よりお見舞い申し上げます。 今回の台風も災害情報のあり方について多くのことを考えさせられました。その中の一つが、事前に危険を示す情報が気象庁から出されていても、なかなかその危機感が情報の受け手と共有されないという課題です。 2019年は大雨警戒レベルの話が導入され、気象情報や防災情報の出し方が見直された年でした。気象や防災に関係する私たちは、情報の中で見ているこの先の危機を伝えることができているでしょうか。 危機を専門外の人にもありありと見せること。これが今こそ求められています。そのための一つの近道が、気象現象そのものではなく、影響を伝えるインパクト予報の充実というものにあると私は思います。 インパクト予報の充実を気象庁の方で進めてもらうため、Change.orgという署名を集めるプラットフォームで 署名キャンペーン を行なっています。署名がたくさん集まったら気象庁長官に届けたいと思います。 ご関心ございましたらシェアやご署名のほど、どうぞよろしくお願いします。 図をクリックしていただくとキャンペーンページが開きます -----キャンペーンページからの転載--- ■キャンペーンのサマリー 日本の防災対策の問題の一つに、気象台が繰り返し台風や大雨の危険性を訴えても、逃げ遅れや気づかないまま災害に巻き込まれるということがあります。気象情報で危険が伝えられても人はなぜ動かないのでしょうか? その理由の一つには、予報や気象台が使う言葉がわかりづらいからではないかと思います。例えば普通の人は「 最大風速30メートルの暴風 」や「 1時間雨量で80ミリ 」と聞かされても、ほとんどの場合ピンときません。 逆に、「 暴風で建物が倒壊する可能性がある 」、「 道路冠水が起こって交通障害が発生する 」という 影響 を伝えられた方がこの先どうなるかが分かりやすいです。こうした 影響を伝える新しいタイプの予報 は インパクト予報 と呼ばれます。 インパクト予報はすでにアメリカで運用されており、日本でも発表することが十分できるのですがその重要性は見過ごされています。 そこで、このプロジェクトにご署名をいただくことにより、私たちは インパクト予報を必要としているという声を気象庁長官に届けたい と思います

【オーストラリア】具体的な行動指針まで伝える警報文の例(山火事のケース)

■はじめに  日本の防災情報の弱いところを一つ挙げるとしたら、行政からの避難メッセージの内容だと私は思います。避難勧告などの発表時でも伝えられることはごくわずかで、よくあるパターンが発表事実をメインにしたものです。 目を海外に向けてみると、日本の行政が出す情報と量や質に大きな差があることが分かります。その違いを明らかにするために今回ご紹介したいのは、オーストラリアの山火事に対する情報発信の例です。 ■ライン上に進む山火事 オーストラリア・クイーンズランド州当局の情報をご紹介する前に、現地の山火事がどう展開するかをまずは動画でご覧ください。0:22秒のところから空撮映像が流れます。そこには火災が線状になって発生している様子が映し出されています。 オーストラリアに滞在していた時に現地の人から初めて聞いた時は驚いたのですが、山火事で逃げ遅れた時にはこの火災のラインが家の周りを通過するまで安全なところにいるという方法があるそうです。このことを頭に入れながら、クイーンズランド州火災・緊急サービス(QFES)が発表した実際の予報文をご覧ください。 ■2019年10月8日に発表された山火事警報 以下の訳は筆者による仮訳です。太線部は原文( こちら )に対応しています。日本に比べて優れていると考えられる点に関して、赤字で補足コメントをつけました。 ---- 今すぐ退避:Townson(Glen Rockの山火事関連)10月8日火曜日午後2時25分現在 メディアへの注意事項: QFESはメディアに対して本情報の対象地域に放送を行う際には、このメッセージ内容とともにスタンダード警報シグナル(SEWS)を用いてください。 →SEWSは緊急時に流されるメディア共通の警報音で、実際の音は こちら から視聴ができます。テレビやラジオなどを通じて重要なお知らせの前には住民はこの音を耳にすることになります。 山火事の警告レベル:緊急警告 クイーンズランド火災・緊急サービス(QFES)より、山火事がTownsonに接近していることをお伝えします。これから先、車の運転を行うには危険な状況になるため、 今すぐ退避 することが一番の安全策です。 →緊急警告の情報が発表されたことだけではなく、危機に対応するためにいつ・何をすべきかまで簡潔に伝えられて

【アメリカ】「この先何週間も居住が不可能」と伝えた予報

2005年にニューオリンズを襲い、壊滅的な爪痕を残したハリケーン・カトリーナ。この時、アメリカの気象当局はそれまで出したことのないある予報をハリケーン襲来の1日前に出していました。原文はこちらです(以下、和訳が続きます)。 ハリケーン・カトリーナの際に出された影響予報 出典  https://www.weather.gov/media/publications/assessments/Katrina.pdf ーーー仮訳(太線は渡邉がつけたもの)ーーー 緊急−気象メッセージ アメリカ気象局ニューオリンズ ルイジアナ州 午前10時11分 中部標準時 2005年8月28日(日) 破壊的なダメージ が予測されています。 これまでに経験したことのない強さを伴った非常に強力なハリケーンカトリーナは、1969年の ハリケーン・カミールの強さに匹敵 しています。 台風によって影響を受けるほとんどの地域は この先何週間も居住が不可能 になる見込みです。 居住不能な期間は長引く可能性 もあります。 頑丈に作られた家 のうち、少なくとも 半数程度は屋根や壁に被害 が見込まれます。 切り妻造りの屋根は全て被害 を受け、そうした屋根を持つ家々は 深刻なダメージを負うか、破壊される ことでしょう。 工業用の建物 の多くはその 機能を果たせなくなる 見込みです。壁や屋根が部分的もしくは全体的に損傷を受けることが予測されます。 木造の低層アパート の建物は 全て破壊 されるでしょう。コンクリートブロック造の低層アパートは壁や屋根などの損傷といったような深刻な被害は免れる見込みです。 高層のオフィスやマンション の建物は危険なほど暴風によって揺さぶられます。そうした建物のうち 少数は建物が崩壊 するに至る可能性もあります。 全ての窓は風によって破壊 されるでしょう。 暴風によって 様々な物体が至るところで空を舞います 。中には重いものも含まれる可能性があり、例えば家庭用の器具や軽量の車両といった可能性もあります。また、SUV車や軽トラックも暴風によって動かされるでしょう。こうした 宙を舞う物体によってさらなる被害 が見込まれます。人やペット、あるいは暴風の影響を受けるところにさらされた家畜などに物体がぶつかった場合は