2024年10月上旬に自分が住む街・オランダのロッテルダムで行われた 災害関係のコンファレンス に参加したところ、地元エラスムス大学でリスクコミュニケーションやクライシスコミュニケーションを担当している先生と知り合って、それが縁でヨーロッパ各国の避難情報を巡るコミュニケーション上の課題や望ましいあり方を検討していくネットワークに加わることになりました。 プロジェクトの紹介を凝視していたら声をかけてもらえました 気になるコンファレンスはハズレでもあたりでもとにかく顔を出して情報を仕入れようと思って、フランスやベルギー、イギリスに行ったり、オンラインで講演を聞く機会があれば時差があろうがなかろうが手当たり次第聞いたりしてきましたが、こうした展開になったのは今回が初!ここに至るのにヨーロッパに来てから10年かかりました。早いのか遅いのかで言えば、結果的にはちょうどいいと思ってます。 去年のイギリス行きの前に作った名刺が役に立ちました 裏には日本の気象情報が多すぎて複雑という指摘を載せてます 参画するプロジェクトは、EUが資金提供した AlertHub: Warning Communication Knowledge Network というものです。 この4年間のプロジェクトにはすでにヨーロッパ31カ国から79人のメンバーが加わっているそうです。メンバーはほとんどコミュニケーション論関係の大学の先生や博士号持ちで若干気後れしていますが、防災関係の実務者でかつ日本の災害情報にも詳しい人(出版物があるので評価された形)枠で参画OKになったので、日本やオーストラリア、エチオピアなどで見てきた気象情報や災害情報を巡る現場的な課題観を活かしながらプロジェクトに貢献できたらと思っています。 ちなみにこのプロジェクトを主導するのはドイツの先生です。そもそもこの研究ネットワークを立ち上げようと思ったのは2021年に発生したドイツの水害で避難情報がうまく発表されなかった事態を受けてとのこと。プロジェクトの副代表はルーマニアの先生ですが、今年発生したルーマニアの水害でも避難情報のコミュニケーション不全があったといいます。2024年に発生したスペイン・バレンシアの水害でも気象機関が早い段階から警報を出して警戒を呼びかけていたものの地元の防災機関が避難行動を呼びかけるのが遅れたことが問題視されてお...
2000年代初頭のことですが、私はかつて愛知県にある生まれ故郷の自治体で防災担当の仕事をしていました。防災担当というと馴染みのない仕事のように聞こえるかもしれませんが、台風や地震の際に避難所を開設したり、自治体としての防災対応の計画(地域防災計画)を策定したり、災害が発生しそうなときには市町村長が発令する避難勧告などを事務的に補佐したりする仕事です。そうした仕事の中の一つが住民に対する啓発事業です。ハザードマップの配布や街全体の避難訓練などを通じて、「危険が迫るときには注意報や警報、河川の水位の情報、自治体からの避難に関する情報を入手して早めに避難を」と呼びかけていました。 その後、自治体での防災担当の仕事から離れ、民間気象会社のリスクコミュニケーターとして台風や豪雨などの予報を自治体に伝える側に立ったり、日本以外の国々での気象情報の使い方・使われ方を経験的に学んできたりした訳ですが、自治体職員をしていた時の例の呼びかけ−情報を使って判断しましょう−は非常に問題があるものだったと今では思います。 なぜでしょうか?一言で言えば、「見る」と「見極める」の違いを踏まえた呼びかけができていなかった点です。 「見る」と「見極める」は全く異なります。医者が患者に対して説明なしにレントゲンの検査結果を見せたと想像してみてください。患者もその画像を「見て」いますが、医療面の予備知識がなければその陰影が何を示しているかまで「見極める」ことはできません。気象情報の話に戻せば、情報を見てもらえば良いのではなく、情報から自らや地域などへの影響を「見極める」というレベルで利用してもらえるよう働きかける必要があったという訳です。 皆さんは気象情報を見ていますか、それとも情報から危険性を見極めていますか? 赤信号や青信号のように情報と意味の結びつきが単純であれば「見る」と「見極める」の違いはあまり問題になりません。赤信号は止まれ、青信号は進めです。しかし、気象情報の場合は様々な要素が絡んでくるため、見極めることができるようになるためには最低限の予備知識やデータを読み解く技術が必要です。 しかし、ここでいう予備知識や技術というのは気象学のことではありません。 私が自治体で防災担当をしていた時に、「知識をつけるために気象予報士の勉強をしろ」とボソッとつぶやいた上司もいましたが、気象予報士の資格を所持...