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11月, 2014の投稿を表示しています

【地域の弱さを知る vol.9】下水道の対応能力から見た地域の弱さ

こんにちは。渡邉です。 ブログを書くのは早朝であったり、日付が変わる前であったり様々ですが、今日は後者です。 さて、大雨が降った時、マンホールから水があふれ出て内水氾濫が起こります。 では、どういった雨量からそうした危険性があるのでしょうか? 今日はその点についてまとめていきます。 ※前回のブログは こちら ---------------------------- ■下水道の対応能力から見た地域の弱さ 大雨に対する地域の弱さをあらかじめ把握することで、いざ大雨となった時に危機を危機として認識できます。裏返して言うと、その点に関する認識がなければ十分な対応が取れません。このことがあるので、気象情報を使いこなす基本中の基本として、まずはお住まいの地域の弱さを知っておく必要があります。 地域の弱さを具体的に把握するため、ここまでは降ってくる雨の量を主軸として考えてきました。これに対し、地域側の排水や治水能力の限界を知ることも別のアプローチ方法として有効ですので説明を加えたいと思います。 集中豪雨などがあると、下水道から水があふれ出ることがあります。これは、ある一定の雨量までは地域の雨水処理のシステムが機能しても、その限界を超えた雨量に対しては脆弱、つまり、お手上げなことを示しています。 このいわば「下水道の限界レベル」はそれぞれの自治体や地域の状況によって異なるため、詳しく知りたい場合はお住まいの自治体の下水道担当課に問い合わせ、「どの程度の1時間雨量まで対応ができるのか」を確認するのが1つの方法です。 ただし、そこまでするのは手間がかかるのも事実なので、気象庁が作成した「雨の強さと降り方」の表を参考にすることもできます。*1 雨の強さと降り方(気象庁ホームページより) 一番左の「1時間雨量」と一番右の「災害発生状況」を対応させ、下水についての記述を抜き出してみると以下のとおりです。            1時間雨量:災害発生状況    20ミリ以上~30ミリ未満:側溝や下水、小さな川があふれ、小規模の崖崩れが始まる    30ミリ以上~50ミリ未満:都市では下水管から雨水があふれる    50ミリ以上~80ミリ未満:マンホールから水が噴出する 前述のとおり、お住

【地域の弱さを知る vol.8】観測史上の値や年間降水量等を参考に危険な雨の量を知る

こんにちは。渡邉です。 私が好きなとある作家は毎日文章を書くことでリズムを壊さないとインタビューで答えています。 「地域の弱さを知る」シリーズの途中で全然別のこと(会社ができた件)を一昨日挟んだので、続けて書かないと何を書いていたか忘れますね・・・。 簡単にここまでのおさらいですが、50年に1回の雨の値、注意報・警報の基準値、過去の災害時の雨量、ハザードマップでの想定雨量をもとに、地域に影響を与える雨量を知ろうという内容でした。前回のブログは こちら です。 特集記事の合間にどうしても書きたくなった件(例えば今週、ブリスベンで集中豪雨が起こり日本でもニュースになったのですが、これに関するソーシャルメディアのつかわれ方など)は、一つのシリーズが終わった時に書いていこうと思います。 今日はこれまでと少しアプローチを変えて、極値という値や月間降水量、年間降水量を基に地域にとっての大雨を探ります。 それではどうぞ↓ ---------------------------- ■極値・月間降水量・年間降水量との比較 「災害を与えうる雨量」について、過去に災害が発生したときの雨量や、発生が想定される雨量を基に考えてきました。こうした見方の他にも、地域にとって大雨となっていることを把握する方法として、観測史上の値と比べたり、月間や年間の降水量と比べる方法があります。これらの方法はこれまでの手法とは違い、どのような災害が起こり得るかを直接的にイメージできるものではありませんが、ある地域にとって尋常ではない降水を定性的に把握することができます。 気象庁のホームページでは、これまでに観測された雨量データを容易に利用できます。 少し前にも紹介した「過去の気象データ検索」のページを開き、都道府県と最寄りのアメダスを選びます。「年月日の選択」は選ばず、そのまま「データの種類」の中から「地点ごとの観測史上1~10位の値」を選択します。 ※過去の気象データ検索のページはこちらです。 http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php 過去の気象データ検索の画面(気象庁ホームページより) 試しに名古屋のアメダスのデータを上記の方法で調べてみますと、以下のようなデー

【地域の弱さを知る vol.7】洪水ハザードマップの想定雨量から地域の弱さの目安をつかむ

こんにちは。渡邉です。 今日は引き続き特集記事です。 前回まで(前回のブログは こちら )は、過去の災害時の雨量をもとに 地域の弱さを知る方法を述べてきました。今日は洪水ハザードマップの 想定雨量から地域の弱さの目安をつかむ方法を書いていきます。 ---------------------------- ■洪水ハザードマップの想定雨量と地域の弱さ ここまでは過去の災害時の雨量をもとにしながら地域の弱さを考えてきました。「起こったこと」を示すのが過去の災害であるのに対し、「起こるかもしれないこと」を示すのが洪水ハザードマップ(浸水想定区域図)です。 国土交通省のホームページによれば、洪水ハザードマップを公表している市町村は現時点で1,307団体となります*1。ハザードマップが公表されている場合、自治体のホームページ上や防災担当課で入手することができます。 各市町村の洪水ハザードマップにリンクされています (国土交通省ホームページより抜粋) 洪水ハザードマップを手に取った場合、一番最初に見るところはご自宅周辺の浸水深だと思いますが、次に見て頂きたいのが想定雨量です。 洪水ハザードマップは、ある雨量が流域で降ったと仮定した時に、どのような浸水が起こり得るかを示したものです。逆に言えば、浸水の可能性が示されている場所は、想定雨量に対して持ちこたえられず、何らかの被害が発生する可能性があると考えられる場所です。 このようにみると、洪水ハザードマップは単に浸水が起こる可能性があるのか否かを示すのではなく、どのレベルの総雨量に対して該当地域が弱いのか、一定の目安を得ることができるツールと言えます。 具体例を見てみましょう。世田谷区を事例にしたいと思います。世田谷区は区の西部が一級河川の多摩川に面しています。また、区内には複数の中小河川が流れています。 世田谷区は洪水ハザードマップを2種類作成しており、1つは多摩川を対象にした「 多摩川版 」、もう1つは多摩川以外の中小河川を対象にした「 全区版 」です。2つのバージョンとも区のホームページからダウンロードできます*2。 世田谷区洪水ハザードマップ 多摩川版 世田谷区洪水ハザードマップ 全区版 多摩川版、全

【お知らせ】Weather Plus Communication Designが会社になりました

こんにちは。渡邉です。 今日はいつもの特集記事をお休みして、会社設立のお知らせです。 去る2014年11月18日にオランダの商工会議所で手続きが終わり、Weather Plus Communication Designが正式に動き出しました。 会社設立にあたり、公私にわたってご支援頂いた皆様(もちろん、家族もです)、背中を押してくださった皆様にこの場を借りて厚くお礼申し上げます。 特に、30代半ばを過ぎた段階で挑んだ「気象情報の利用方法の研究」というテーマでのオーストラリア留学に対して、奨学金や惜しげないサポートを与えて頂いた伊藤国際教育財団関係の皆様には本当にお世話になりました。研究の成果を少しでも社会にフィードバックできたらと考えています。 また、日本をはじめ、世界各地でブログを読んでくださっている皆様にはいつも励まされております。本当にありがとうございます。 そして本日、友人のU君に無理を言って作ってもらったロゴが完成しました。 こちらです↓ このロゴマーク、雨が地面に降っているようにも見えますが、実は二つの矢印(→と←)からイメージして作ってもらいました。 青色は雨の色ということで気象情報を、金色は人々の知識や知恵を表し、気象情報を上手に使うには両者を持ち寄ることが大切という思いを込めています。と、同時に、気象情報の有効利用は一方的な伝達(A⇒B)でなく、AとBの相互作用にあるということも示す、欲張りなロゴです。 忙しい中で喜んでアイデアを練って、素敵なロゴをプレゼントしてくれたU君、本当にありがとう。 最後になりますが、このブログでの特集記事や世界各地のレポート、また、会社の各事業を通じて声高らかに訴えたいことは、「気象情報」だけを抜き出して考えるのではなく、ある地域やそれぞれの個人にとって気象情報が何を意味するか、どう使ったらいいのかというところまで含めた「コミュニケーション」が重要であるという点です。 これが、"Weather Plus Communication Design"という社名にした理由です。 気象情報をうまく使うことができれば、気象災害はもっと減らせます。このビジョンに向かって

【地域の弱さを知る vol.6】過去の災害の情報はいきた情報となっているか

こんにちは。渡邉です。 昨日書いたブログ(リンクは こちら )では、過去の災害をアメダスのデータから 検索する方法をお伝えしました。なぜこれが必要かというと、 過去に災害が発生した時の雨量が、今後の災害に備える際に目安となるからです。 将来の災害へ備えるための示唆を与える過去の災害。 今日はこの情報が自治体でどのように扱われているかをまとめます。 ---------------------------- ■過去の災害の情報はいきた情報となっているか ここまで、過去の災害を調べることの重要性を述べてきました。過去に何が起こったかを具体的に把握することが将来への備えにつながるからです。 自治体も過去に何が起こったかに着目しており、災害マップなどでそうした情報をまとめています。 例えば岐阜県郡上市の場合、過去に発生した土砂災害の場所を地図上に示しています*1。口大間見自治会の土砂災害ハザードマップの一部を抜粋して紹介します。 郡上市土砂災害ハザードマップ(抜粋) 地図上の危険個所には吹き出しが付けられ、補足説明として以下のような情報があります(下線は筆者がつけたもの)。    ・ 過去 に 大雨 で水があふれ冠水した。    ・ 過去 に 大雨 で河川があふれそうになった。    ・ 過去 に土砂の流出があった。    ・ 過去 に 大雨 で水があふれ冠水した。 など この例を踏まえたコメントに移る前に、もう1例程挙げてみます。 埼玉県さいたま市は、「さいたま市浸水(内水)防災マップ」をホームページ上で公表しています。このマップで表されている情報は、「近年10年間(平成13年度から平成22年度)の間に市民の皆さんから通報があった浸水情報をもとに、地形情報を考慮して設定」されたものです*2。 これも実例として岩槻区版の一部を抜粋してみたいと思います。 さいたま市浸水(内水)防災マップ(抜粋) さいたま市の場合、地点ごとのコメントはありませんが、色で浸水深が表されています。 郡上市やさいたま市がまとめたように、「過去に何が起こったのか」という情報は、地域の災害に対する弱さ(脆弱性)を知る手がかりになります。ただし、具体性の欠

【地域の弱さを知る vol.5】過去の災害を調べる(その2)

渡邉です。こんにちは。 昨日の ブログ では、過去の災害を分析する際の4つのポイントとして以下をご紹介しました。    【1】総雨量として何ミリ降ったか    【2】何時間(あるいは何日間)降り続いたか    【3】ピーク時の1時間降水量は何ミリだったか    【4】結果として何が起こったか 前回は東海豪雨を事例として過去の大規模な災害の調べ方について述べましたが、 今日は中小規模の災害で【1】~【4】をどう調べるかまとめていきます。 ---------------------------- ■中小規模の災害の雨量を調べる 大規模な災害は気象庁がレポートをまとめるほか、都道府県や消防庁のホームページなどで被害の様子を把握することができます。一方で、このような手段で情報が入手しづらい、中小規模の災害についてはどう分析すればよいでしょうか。 1つのやり方としては、災害が発生した日付(正確な日付がわからない場合は年月)をもとに、気象庁のアメダスのデータから雨量関係の情報を入手する方法があります。 ※過去の気象データ検索のページはこちらです。 http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php 「過去の気象データ検索」(気象庁ホームページから) 例えば、「確か2014年10月に横浜で大雨があって、土砂災害があったはず」ということを手掛かりに過去の情報を検索してみましょう。    都道府県の選択→「神奈川」    神奈川県内の地点を選択→「横浜」    年月日の選択→「2014年」「10月」 (日付はわからないので空欄)    データの種類→「2014年10月の日ごとの値を表示」 上記の選択を行うと次のような結果が出てきます。 日ごとの値(2014年10月・アメダス横浜) (気象庁ホームページから) 表示された結果を見ると、10月5日の降水量は165ミリ、6日の降水量は187ミリで、2日間の総雨量は352ミリに達しています。ピーク時の1時間雨量は、5日は19ミリ、6日は51ミリです。ちなみに一番左の日付をクリックしていくと、その日の1時間ごとの値が参照できます(さらに選択すれば10分ごとの

【地域の弱さを知る vol.4】過去の災害を調べる(その1)

こんにちは。渡邉です。 前回の ブログ では、気象台が地域地域の災害を分析して 注意報や警報の基準を作っていることをご紹介しました。 この方法を真似する形で、過去の災害に関する情報の中から 地域の弱さを調べる方法を今日はまとめていきたいと思います。 ---------------------------- ■過去の災害を雨量から見る 注意報や警報の発表基準は、気象台が各自治体の過去の災害を分析して設定したことは先に述べました。この、「過去の災害から学ぶ」という方法は、災害に対する地域の弱さの概要を把握する1つの有力な手段です。そこで、各自で過去災害の分析を簡単に行う方法を紹介していきたいと思います。 過去の災害は大小を問わず利用できます。例えば、気象庁が「○○豪雨」と名付けるような大きな災害はもちろん、近所のアンダーパスや道路が冠水したといった比較的小さな災害まで含みます。前者は、大きな災害をもたらし得る気象条件、後者は小規模な災害をもたらし得る気象条件として整理できるからです。 過去の災害を分析する際のポイントは4つです。    【1】総雨量として何ミリ降ったか    【2】何時間(あるいは何日間)降り続いたか    【3】ピーク時の1時間降水量は何ミリだったか    【4】結果として何が起こったか 他には、面的にどのような広がりで降雨となったのか、台風や梅雨前線といった大雨をもたらした要因は何か、3時間雨量や24時間雨量はどの程度であったかなどを把握しておくことも有益ですが、まずは上記の4つのポイントを押さえるだけでも、概ね何ミリ程度の雨に対してその地域が弱いのかを知ることができます。 例えば、2000年9月に発生した東海豪雨について【1】から【4】の視点でまとめると、以下のようになります。 2日間の総雨量は名古屋で567ミリ、東海市で589ミリ。9月11日の18:06から19:06の1時間には名古屋で97ミリの降雨。東海市では同日の18時~19時にかけて1時間で114ミリを記録。この豪雨の結果、各地で河川が決壊したり越水し、愛知県内では死者7人、重軽傷者107人、床上浸水22,078世帯、床下浸水が39,728世帯に達した。 この情報は、名古屋地方気象台がまとめた「気象災害の記録」というホームページから引用し

【地域の弱さを知る vol.3】大雨注意報・警報の発表基準を手掛かりに

こんにちは。渡邉です。 昨日の ブログ では「○年に1回の大雨」をキーワードに 地域の弱さを把握する方法をまとめましたが、 今日は注意報・警報の基準値をもとに議論します。 ---------------------------- ■災害が起こる目安としての注意報・警報などの基準値 これまでは「○年に1回の大雨の量」いう視点から地域の弱さについて述べてきました。この他にも、気象台が発表する大雨注意報や大雨警報などの発表基準値が参考になります。 「注意報」と「警報」のそれぞれの定義ですが、気象庁ホームページでは以下のように紹介しています(下線部は筆者による補記で、注意報と警報の相違点を示します)*1。    注意報: 災害 が起こるおそれのあるときに 注意 を呼びかけて行う予報    警報: 重大な災害 が起こるおそれのあるときに 警戒 を呼びかけて行う予報 大雨に関する注意報や警報の発表基準は、降ってくる雨の量や土壌雨量指数を利用して自治体別に定められています。土壌雨量指数とは土壌中に含まれる水分量を基にした指数であり、土砂災害への注意警戒のために2008年5月28日から運用が開始されました。 「災害」と「重大な災害」、「注意」と「警戒」が注意報・警報によってそれぞれ異なるわけですが、「重大な災害」とは何でしょうか。気象庁のホームページでは以下のように定義しています*2。 被害が広範囲に及ぶ、または被害の程度が激甚であり、地域がその社会の一般的な規範(社会通念)によって「重大」と判断するような災害。 (備考)そのような災害が起こるおそれがあるときの気象状況が警報の対象となる。 注意報や警報の基準値は、気象台が自治体ごと(注意報や警報の発表区分ごと)に過去の災害時の被害やその時の気象条件を調査した上で、都道府県と協議され設定されます*3。なお、この手続きを経て設定された注意報基準・警報基準は気象庁のホームページで閲覧することが可能です。 ※以下のページからアクセスできます。 http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kijun/ 注意報基準・警報基準は隣接する市区町村でも大きく違う例があります。 例えば東京の都心部の大雨警報の基準値を見ると*4、基準とする時間的な幅を1時間(R1)とする

【地域の弱さを知る vol.2】あなたの街の「50年に1回」の雨量は何ミリ?

こんにちは。渡邉です。 今日は昨日の ブログ に引き続き、 雨の比較的降りやすいところと 降りにくいところを違いを踏まえた上で、地域にとっての大雨の量の調べ方をご紹介します。 ---------------------------- ■あなたの街の「50年に1回」の雨量は何ミリ? 水害や土砂災害が発生した後になって「あの雨は100年に1回の規模の雨だった」と報道されたり、あるいは洪水ハザードマップに「概ね○年に1回の降雨を想定した」と書かれていたりすることがあります。 この「○年に1回」というのは、ある現象(たとえば「3時間で200ミリの降雨」など)が何年に1回の割合で平均的に起こるかを示します。この「○年に1回の大雨」というのはその地方の雨量の記録をもとに統計的な処理をされて導き出された数値であり、「○年に1回の大雨」の雨量は場所によって異なります。このため、前回触れた雨の比較的降りやすい地域と比較的降りにくい地域では、例えば100年に1回の大雨の量が大きく異なってきます。 気象庁の「確率降水量の分布図」という資料(リンクは こちら )をみるとその違いが分かりやすいのでご紹介します。 引用した以下の4つの図のうち、左下の図が100年に1回の日降水量ですが、雨の少ない北海道のオホーツク海側では100~150ミリを示す水色であるのに対し、東京などは250~300ミリを示す黄緑色、雨の多い四国南部や九州南東部では400~450ミリの薄いピンク、奄美大島では500ミリ以上の赤色といった違いがあります。  30年に1回、50年に1回、100年に1回、 200年に1回の日降水量の違いを示す  「確率降水量の分布図」(気象庁ホームページより) 1日に200ミリの雨は場所によって意味が変わってくるわけです。上記の例に当てはめれば、「日降水量200ミリ」は北海道のオホーツク海側では「100年に1回の大雨」を大きく超えていますが、奄美大島ではそうではありません。このように、「○年に1回の大雨」とその雨量の情報を使うと、ある大雨がその地域にとってまれな雨であるかが判断できます。 ではどのようにしたら今現在の雨が「○年に1回の大雨」か分かるのでしょうか。 2013年8月30日から運用が開始さ

【地域の弱さを知る vol.1】雨の降りやすいところ・降りにくいところでの「大雨」

こんにちは。渡邉です。 今日のロッテルダムは久々に晴れました。ここ何日か曇り空だったので気持ちのいい日です。 さて、前回の ブログ で、    大雨 × 地域の弱さ=災害 であることをお伝えしました。 今日からは特集記事の第2シリーズということで、 後者の「地域の弱さ」を知るという点にフォーカスを当てたいと思います。 ---------------------------- ■地域の弱さをどう知るか 水害が大雨や豪雨といった外力(がいりょく)と、地域の自然条件や社会条件の脆弱性の掛け算の結果であるとすれば、目を向けるべきは外力と脆弱性の両方です。ここからは脆弱性に着目して、自分たちの住む場所の弱さをどのように知るかという点をまとめていきたいと思います。 さて、地域の弱さを知るためのアプローチの仕方はいろいろとあります。たとえば地形図といった地理的な情報を使ったり、土地利用の変遷を過去の地図と見比べて把握したりする方法が提唱されています。災害に対する地域の言い伝えといったものも手掛かりになることもあります。この特集では、「災害を与えうる雨量」に関して社会の中に散らばっている情報を手掛かりに地域の弱さを推測していきます。 ■雨の降りやすいところ/降りにくいところでの「大雨」 日本の太平洋側、例えば東京などの都市で降雪があると、日本海側など雪に慣れている地域と違って雪に対する抵抗力が低い(脆弱性が高い)ので、少しの積雪で都市機能が麻痺することがあります。同じことが雨に対しても言えます。普段から雨が多い地域での日降水量100ミリと、雨が少ない地域での日降水量100ミリは地域に与えるインパクトが異なってきます。 さて、皆さんのお住まいの地域は雨の多い地域でしょうか?あるいは少ない地域でしょうか? 気象庁のホームページで参考となる情報がありますので図を引用します。これは「メッシュ平年値図」というもので、1981年から2010年という統計期間の平年値を使って推定され、作られたものです*1。 メッシュ平年値2010 降水量(年)(気象庁ホームページより) 暖色系の色で塗られている部分が雨の比較的多い地域で、地形の影響から大雨になりやすい太平洋側の地域が該当しています(静岡、和歌山、四

【災害と気象情報 vol.7】「気象災害ゼロ」の社会に近づくには

こんにちは。渡邉です。 今日はこれまで概念的に整理してきた(つもりの) 「災害と気象情報」編の総まとめです。 ---------------------------- ■気象災害ゼロの社会に近づくには オーストラリアの自治体や農家を例として、気象情報の利用時には能動性が求められることを指摘してきました。この能動性は、災害の特質に照らし合わせても妥当なものであると言えます。 災害は2つの条件が重なって発生するという議論があります。一つは地震や集中豪雨といった現象そのもので、「外力」又は「誘因」と呼ばれます。一方のものは、災害に対する私たちの社会の弱さ(地形などの自然的なものに加えて、社会状況などを含む)であり、こちらは「脆弱性」や「素因」と説明されます。 水害という例を使って簡単に言うと、社会の側の脆弱性によって、同じ雨量(同一の外力)でも被害の発生の仕方が変わります。例えば排水設備の整っていない地域で1日に100ミリ降る場合と、洪水対策のインフラが整備された地域で1日に100ミリ降る場合では、前者の地域が水害になる可能性が高いわけです。この例では脆弱性を都市インフラの面から述べましたが、人口や建物の構造のほか、気象情報の整備状況や事前の警戒情報システムの有無などの社会的な要素も脆弱性を構成する要素です。 大雨そのものが即、災害に結びつくのではありません。水害や土砂災害は、「気象条件」と「脆弱性」を掛け合わせた結果です。 こうした特質をもつ災害に備えるためには、気象情報をただ見るだけでは不十分で、地域の脆弱性(あるいは個人の脆弱性)を踏まえたうえで、気象情報の中から自分にとって必要な情報を能動的に見極めることが求められるわけです。 住んでいる地域や自分の置かれた状況に関するローカルな知識を気象情報の利用者が積極的に利用して、気象情報の中から必要な情報を読み取っていけるようにすること。これが気象情報を有効に利用しながら個人や社会の防災力を高めていくことにつながっていきます。「気象災害ゼロ」の社会に近づくには、気象情報の伝達・受信といった形式的なやり取りの一段階上を私たちは目指さなければなりません。 (「 雨の降りやすいところ・降りにくいところでの『大雨』 」に続く) ---------------------------- (参

【災害と気象情報 vol.6】情報を能動的に使いこなす重要性

こんにちは。渡邉です。 昨日の ブログ では、オーストラリアの自治体が洪水予報を利用する際に、 気象当局からの情報を受動的に利用するのではなく、 能動的に使っている事例があることを紹介しました。 今日は自治体ではなく「個人」に焦点を当てながら、 これまでの2回の議論のまとめをしたいと思います。 ---------------------------- ■情報を能動的に使いこなす重要性 日本の場合は気象情報の「発信」・「受信」や「情報の収集」に目が向けられがちですが、オーストラリアの例に目を転じれば、気象当局と利用者が対等な関係を築いて両者が合意できる予報を作りだしたり、自らの洪水モデルを走らせて気象当局の予報を評価することがある訳です。 受動的・能動的というキーワードで気象情報の利用の仕方を再度整理すると、日本の自治体の場合は、より能動的に気象情報を使っていくという点を伸ばしていく必要があります。 同じことは、個人が気象情報を利用する姿勢に対しても言えます。 各種の気象情報がインターネット上などで入手できるようになっていますが、これらの情報が自分の置かれた状況に対して何を意味するか能動的に解釈していくことができなければ、仮に情報が入手できていたとしても意味がない場合があります。 この点について、再度オーストラリアの事例をもとに説明してみたいと思います。 2011年1月11日、クイーンズランド州のGranthamは短時間で起こる水害に見舞われました。2005年からその地に住み、この水害で九死に一生を得る体験をした農家のAさんは河川の水位に関する情報を次のように使いました。 その日、大雨の影響を心配したAさんが気象当局のホームページで水位を確認すると、上流部にある町で測られた水位が12.68mに達していることが目に飛び込んできました。「まさか」という思いからパソコンの不調を疑ったAさんは電源を入れなおして再度確認しましたが、水位は増水した状態を確かに示していました。 Aさんは、その12.68mという数字が彼の身に何をもたらし得るのかを知っていました。2010年12月下旬に同地で何度か発生した小規模な水害の経験から、Aさんの家に影響が出始める水位の基準(4メートル)が頭にあったからです。 危険を確信したAさんは、家族

【災害と気象情報 vol.5】気象当局と自治体のコンセンサスで導き出す洪水予報

こんにちは。渡邉です。 昨日の ブログ に引き続き、気象情報の使われ方に焦点を当てたいと思います。 今回も 検討の対象とするのは個人ではなく自治体です。 前回は、日本の自治体が気象情報などを使うときは「情報収集」の側面が 強くなりがちであることを述べました。 今日はその点を発展させながら、日本とは別のやり方を行っている オーストラリアの自治体の例をご紹介します。 ---------------------------- ■洪水予報と「コンセンサス・ビュー」 気象情報や洪水予報といった情報のやり取りを見ると、日本の場合、気象台等が「発信者」、情報の利用者である自治体は「受信者」といった関係性を見い出すことができます。情報の流れを矢印で示せば、発信者から受信者へ向いており、それは一方通行な流れです。 こうした関係性ではなく、情報を利用する自治体の側と気象当局が対等のレベルに立ち、それぞれの知見を持ち寄って予報を作り上げていくプロセスがオーストラリアの自治体で取られています。 オーストラリア北東部のクイーンズランド州に位置するCentral Highlands Regional Councilという自治体では、2010年12月末から2011年1月上旬にかけて発生した洪水の際、地元の水文学者を災害対応のチームに招き、地域の降水状況や出水の様子を郊外に住む農家や居住者に電話で確認しました(註:オーストラリアは国土が広いので、雨量や水位の十分な観測網がありません。このため電話で雨量などを確認するという対応がとられています)。 こうして得られた情報に加え、過去の洪水の発生条件との比較などを基に自治体独自の見解がまとめられ、州都ブリスベンにある気象当局の洪水予報担当者と予想される最高水位に関しての協議が行われました。このような方式が採用されるようになった契機は2008年に同地を襲った水害です。この時の洪水予報が大きく外れ、気象当局の予報精度に対して地元から深刻な懸念が提示されたことが踏まえられています。災害対応に当たった自治体の首長はこうして導き出された水位の予測は「コンセンサス・ビュー」(a consensus view/合意された予測)であると述べ、この時の対応を後日振り返って高く評価しています。 このほか、同じくクイーンズランド州のG

【災害と気象情報 vol.4】「情報の収集」に見る受動性の問題

こんにちは。渡邉です。 前回までは3回に分けて、  (1) 局地的・突発的な大雨は「予測困難な事象」か?  (2) 「情報の伝達」という課題/「情報の伝達」にまつわる課題  (3) 気象情報の有効利用のための3つのポイント を書いてきました。災害があると気象情報の伝達が見直されますが、 情報を利用する利用者の能力向上という視点が必要であるとまとめました。 今日からは少しテーマを変えて、「気象や災害関連情報の使われ方」を 考察してみたいと思います。気象情報は受身的に利用するのではなく、 能動的に利用していくことが重要なことを書いていきます。 ---------------------------- ■気象情報利用の受動性・能動性 気象情報や災害情報の伝達に関して、利用者がその情報を知らなかったり、参照しようという意向を持たなければ情報は活かされないことを紹介してきました。 情報そのもの存在や情報利用の利点に関する認知度を上げたり、情報の使い方まで立ち入って情報提供をしたりすることが今後求められるわけですが、そもそもの問題点として、日本の場合は気象情報・災害情報が受動的に利用されることが背景としてあります。この点は、海外の事例と比較してみると分かりやすいので、まずは日本の自治体の災害対応例に触れた後、オーストラリアの自治体で気象や洪水に関する予報がどのように使われているかを例として挙げて行きます。 ■「情報の収集」が中心となる自治体の災害対応 災害に対する自治体の対応は災害対策基本法の規定に基づいて「地域防災計画」というもので定められています。気象情報や洪水予報などの情報は、地域防災計画では一般的に「情報の収集・伝達」という観点で扱われます。 例えば広島市の地域防災計画(2014年11月現在)*1の場合、「気象情報」は以下のような場面で顔を出します。 第3節 情報の収集及び伝達 災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、迅速かつ的確な応急対策を実施するため、現有の通信連絡手段を最大限に活用し、防災情報(気象情報等や災害情報)等各種の情報を迅速かつ確実に収集、伝達及び報告を行う。(p. 81) なお、ここでいう「気象情報等」や「災害情報」は一覧表としてまとめられていますのでご紹介しますと以下のとおりです(出典

【オーストラリア】個別住居の洪水リスクに関するレポートが簡単に手に入る利点とは

こんにちは。渡邉です。 特集記事 を3日間続けましたので、今日は気分転換として、 水害の危険情報を伝える方法について、オーストラリアの事例をもとに 紹介してみたいと思います。 さて、特集記事を書く際に引用した国土交通省の「新たなステージに対応した防災・ 減災のあり方に関する懇談会」の第1回懇談会の資料(資料3「欠席委員からの意見について」)を 見ていましたら、以下のような指摘がありました。 「水害のリスクがある場所に住んでいる住民も、その危険がわかって住んでいるのであればまだいいが、全然わかっていない住民もいる。土地・建物の取引時にそういった情報の周知を徹底させることが必要ではないか。」 ※引用資料のダウンロードはこちら http://www.mlit.go.jp/river/bousai/stage/01-03.pdf   この点に関して、ブリスベンの事例が参考になりますのでご紹介します。 ブリスベン市のホームページでは、任意の住所を入力すると、過去の水害情報や 河川の増水レベルの発生確率が分かるサービスを提供しています。 このサービスは"FloodWise Property Report"と呼ばれていて、無料で利用することができます。 ※リンクはこちら http://www.brisbane.qld.gov.au/planning-building/planning-guidelines-tools/online-tools/floodwise-property-report 上記のページに住所を入力すると直ぐに結果が分かります。 以下に、ブリスベン市内の何か所かの住所を入れたものをご紹介します。 住所にはgoogle mapのリンクをつけました。なお、例として挙げるいずれの場所も 筆者が土地勘がある場所から選んだのみで、ブリスベンを代表する場所と いった意味合いなどはありません。 棒グラフで表されたものは、1年のうちに何パーセントの割合で表示されている 水位に達する可能性があるかというものです。オレンジ色のグラフは2011年の 洪水時の浸水深です。緑色のものはその場所の土地の高さを示します。 --------------------

【災害と気象情報 vol.3】気象情報の有効利用のための3つのポイント

渡邉です。こんにちは。 前回のブログ(リンクは こちら )では、「情報の伝達」だけに焦点を当てても、 期待するような効果が表れないことを記しました。 では、求められる防災情報のあり方とは何でしょうか。 今回はこれまで2回の検討を踏まえて、解決策の試案として 情報提供や能力向上のための働きかけ(キャパシティビルディング)の必要性を訴えています。 ---------------------------- ■気象情報の利用者のローカルな知識 情報が整備されたり高度化されたりしても、利用者が積極的に利用しなければ意味がないというのが問題の本質であるので、情報の中身や伝達手段に加えて目を向けるべきは利用者という「人」の部分です。 さて、これまでは情報を出す/利用者が利用するという側面を強調した説明をしてきました。 この議論は、災害に関する情報を持つ人や組織から、情報を持たない人や組織への一方通行の流れを前提としています。確かに、気象庁などが持つ情報量と気象を専門としない自治体や個人の利用者が持つ情報量は異なるため、前者と後者のコミュニケーションを考えた場合、欠如している情報を補うという要素が強調されがちです。 「気象情報」という括りで考えれば確かに差があるかもれません。一方で、気象情報の利用者は住んでいる地域に関する情報や個人の置かれた状況などに関する情報を持っています。ローカルな事柄に関する知識という面から見れば、気象情報の利用者は気象関係の専門家よりも豊かな知識があるのです。 この視点を利用しながら再度「人」の問題を考えると、ローカルな知識が活きる形で気象情報が積極的に利用されないことが問題であることが明らかになってきます。 ■「どの情報をどう使えば私にとってどう役に立つか」 気象情報の利用者はただ情報を受け取るのではなく、自らが置かれた状況と照らし合わせながらそれを有効に利用していくことが求められるわけですが、そうしたことを可能とするためには国や自治体はどのような働きかけが必要なのでしょうか。 これまでの議論を踏まえた上で1つの試案として考えられるのは、以下の3つの点を他のリスク情報(洪水や土砂崩れのハザードマップなど)に合わせて情報提供していくことではないかと思います。

【災害と気象情報 vol.2】「情報の伝達」という課題/「情報の伝達」にまつわる課題

こんにちは。渡邉です。 前回のブログ(リンクは こちら )では、「予測困難な事象」といわれている 局地的・突発的豪雨に対してナウキャスト予報はある程度できていることを指摘しました。 それでは、こうした情報がうまく伝達されれば問題は解決するのでしょうか? 今日はその点に関する見方を整理します。 ---------------------------- ■「情報の伝達」という課題/「情報の伝達」にまつわる課題 「局地的で突発的な大雨や土砂災害の危険性が直前に予想されうるのであれば、その情報を正しく伝達することこそ現状の課題である」と見ることもできます。 国の議論の方向性、特に消防庁の検討会はその点を強調していると言えます(「突発的局地的豪雨による土砂災害時における防災情報の伝達のあり方に関する検討会」という名称からも明らかです)。 一方で、防災情報の伝達には特有の困難さがあることを研究者は指摘しています。少し概念的な内容になるので、引用する前にまずは防災情報の具体例から話を始めたいと思います。 大雨が予測される場合、気象庁から様々な情報が発表されます。災害が起こる恐れのある時には「注意報」、重大な災害が起こる恐れのある時は「警報」、重大な災害が起こる恐れが著しく大きい時は「特別警報」といった具合です。また、警報が発表されている状態で数年に一度の大雨が観測又は解析された際には「記録的短時間大雨情報」が発表されます。 なお、「記録的短時間大雨情報」は1982年の長崎豪雨災害、「特別警報」は2011年の紀伊半島の豪雨災害を受けて新設された情報で、「警報が発表されている状況下で更なる警戒を呼び掛けることが難しかった」という反省から生まれました。 土砂災害の危険性が高まった場合には、気象庁と都道府県が共同で「土砂災害警戒情報」を公表します。また、土砂災害の危険性を5キロ四方毎に示す「土砂災害警戒判定メッシュ情報」も気象庁のホームページで確認することができます。 河川の増水に関しては、一部の河川を対象として「指定河川洪水予報」が行われ、予測される水位や実況に合わせて「はん濫注意情報」、「はん濫警戒情報」、「はん濫危険情報」、「はん濫発生情報」が発表されます。洪水予報のこうした表現については「市町村や住民がとるべき避難行動等との関連が理解

【災害と気象情報 vol.1】局地的・突発的な大雨は「予測困難な事象」か?

こんにちは。渡邉です。 前回の ブログ でお知らせしたとおり、 今回から特集記事を組んでいきたいと思います。 初回は「局地的・突発的な大雨は『予測困難な事象』か?」をテーマに 2014年の各地での災害を受けた国の動きの紹介や、 その議論の前提に対する考察を行います。 ---------------------------- ■2014年の気象災害を受けた国の動き 2014年には各地で大雨による災害が頻発しました。この年の7月には台風8号の影響によって長野県南木曽町で短時間強雨が発生。土石流に4名が巻き込きこまれ、うち 1名の方が亡くなりました。7月末から8月末にかけては、台風12号や台風11号の他、前線や湿った空気の影響で大雨となり、特に8月19日夜から20日明け方にかけて発生した広島市の豪雨では住宅街を襲った土砂災害により74名の方が犠牲となりました。 南木曽町や広島市の災害では豪雨の開始から土砂災害の発生までの時間が短く、危険情報の伝達のあり方が課題として残りました。 こうした事態を受け総務省消防庁は、「市町村が避難勧告等の発令の運用を適切に行い、住民の適切な避難行動を促せるようにする」ため、専門家や自治体の首長、関係省庁からなる「突発的局地的豪雨による土砂災害時における防災情報の伝達のあり方に関する検討会」(以下、「消防庁の検討会」とする)を2014年10月に設置し、「エリアを限定した防災情報の伝達」や「市町村の災害応急体制、平時における住民とのリスクコミュニケーション、政令市等規模の大きな市町村における課題」の議論を進めています。 また、国土交通省も極端化する気象現象や地震、津波、火山への対応として、防災の専門家を中心として「新たなステージに対応した防災・減災のあり方に関する懇談会」(以下、「国土交通省の懇談会」とする)を同年10月に設置し、大規模な災害から「命を守ること」と「社会経済の壊滅的な被害の回避」をテーマに検討を重ねていくこととしています。この懇談会では、南木曽町や広島市の土砂災害を例に挙げ、「避難等に必要な時間を十分に確保できない局地的・集中的な降雨等による災害から命を守る」ことが1つの論点とされています。 ■「予測困難な事象」 国が議論の中心に据える突発的で予測が難しい豪雨。この課題を乗

【お知らせ】気象情報の災害時の利用に焦点を当てた特集記事を始めます

こんにちは。渡邉です。 このブログでは主に海外事例を中心として、日本との比較などを行っていますが、 実はもう一つ試みたいことがあります。 それは、一般の読者の方が今ある気象情報をうまく利用して災害対策に活かすことが できるように、少し体系的に情報を発信することです。 ということで、「気象情報の利用」に特化した特集ページをブログ上に作成しました。 http://wpcdnote.blogspot.nl/p/blog-page_11.html 今後、基本的には、こちらの特集ページ関連のブログ記事を優先して書いていきます。 災害と気象情報というテーマから始め、インターネット上で無料公開されている 気象関連の情報を利用する具体的な方法までカバーする予定です。 この特集記事により、気象情報をただ「見る」のではなく、 そこから「危険性を見極める」ことの重要性やその実践的なノウハウを お伝えできたらと思っています。 引き続きどうぞよろしくお願いいたします。 大雨対策に今ある気象情報はもっと利用できます

【オーストラリア・日本】洪水対策の冊子のデザインの違い

こんにちは。渡邉です。 今日は今週末にG20が開かれる街、オーストラリアのブリスベンの話題です。 何度かこのブログでも紹介してきましたが、ブリスベンは2011年1月の大雨により 大規模な洪水が発生しています。 この洪水により街を東西に流れるブリスベン川が決壊し、ブリスベンの中心部を含め、 ブリスベン市内の94に上る地区が水没しました*1。 ブリスベン川による大規模な水害は1974年にも起きており、 ブリスベンは水害とは切っても切り離せない土地です。 この街の水害対策は工夫が凝らされたものが多く、今後も順次取り上げていく予定ですが、 今日は市の洪水対策の戦略をまとめた冊子をご紹介します。 その冊子は"Brisbane's Floodsmart Future Strategy 2012-2031"と名付けられたものです。 ※ダウンロードは こちら から可能です。 http://www.brisbane.qld.gov.au/sites/default/files/Flood_Smart__Future_Strategy.pdf ↑ブリスベン川から見た市の中心部が 冊子の表紙を飾ります "Floodsmart"というのは「洪水」を意味する"flood"と「賢さ」を意味する"smart”を 組み合わせたブリスベン市の造語で、「賢く洪水と付き合っていく」といった ニュアンスになるかと思います。 この冊子は表紙・裏表紙を含めて全16ページで、以下の内容が網羅されています。 ・市長からのメッセージ(p. 2) ・ブリスベン市の洪水に対するビジョン(p. 3) ・ブリスベンの洪水の歴史(p. 4-5) ・ブリスベン市がこれまで実施してきた水害対策(p. 6-7) ・洪水戦略の4つの原則(p. 8) ・洪水リスクマネジメントの意味(p. 9) ・ビジョン達成のための戦略目標(p. 10-15) 上記を参考に冊子の本文を眺めてみるだけでも、市が洪水とどう向き合おうと しているのかという雰囲気を感じ取ることができると思います。 ブリスベン市の場合は、”Floodsmart”という造

【フィリピン・オーストラリア】「津波のような高潮」と「内陸部での津波」

こんにちは。渡邉です。 昨日の ブログ では、2013年の台風30号(ハイヤン)を例に、高潮について紹介しました。 高潮と津波は発生の原因が異なります。前者は気象条件によってもたらされますが、 後者は改めて指摘するまでもなく地震が原因です。 こうした根本的な違いがあるのですが、「津波(tsunami)」という言葉は しばしば「高潮」や「洪水」と関連付けて扱われます。 例えば、ハイヤンの報道*1を見てみますと、「津波のような高潮」 ( a tsunami-like storm surge)という言葉が出てきます。 また、オーストラリアのクイーンズランド州の内陸部にあるトゥーウォンバ(Toowoomba)で 集中豪雨によって2011年に起こった急な洪水は、「内陸部の津波」(inland tsunami)として 現地メディア*2で報道されました。 内陸部での津波と表現した報道ページ この、「内陸部の津波」という言葉はオーストラリアで広く受け入れられ、 例えば増水の様子を個人で記録したYou Tube動画のタイトルにもなっています*3。 この他、「内陸部の津波」という言葉は、洪水の原因等を究明するために クイーンズランド州政府が設置した委員会でも引用される*4など、 公の場で言及されたこともあります。 これら「津波のような高潮」や「内陸部の津波」は、用語の正確な意味からすれば グレーかアウトなわけです。 ただし、災害を伝える場面では、時として正確さを犠牲とした表現が求められるのも事実です。 フィリピンの台風30号・ハイヤンのケースでは、「『高潮(storm surge)』ではなく 『津波(Tsunami)』という形で避難が呼び掛けれていたとしたら、人々は高い場所へと避難し、 人的な被害が防げたのではないか」という指摘が地元の議員からなされています*5。 同様の指摘は、毎日新聞の「フィリピン:『津波』なら逃げた 言葉の壁、被害を拡大」という 記事でも報告されています。 その記事の要約によれば、「地元語やタガログ語に高潮を示す言葉が無く、 テレビ等で使用された『ストームサージ』の意味が的確に伝わらずに 避難しなかった事例が多く発生」したとのことです*6。 なお、被災地となっ

【フィリピン】2013年台風30号の高潮被害と発生のメカニズム

こんにちは。渡邉です。 フィリピンの台風被害から1年が経過しました。 今日は2013年台風30号(ハイヤン)で起こった高潮被害とそのメカニズムについてです。 この災害では、死者は6,000人強、行方不明者も約1,800人に上りました*1。 レイテ島のタクロバン(Tacloban)では約2,500人の死者が出ましたが、 この約92%にあたる約2,300人が高潮によって亡くなったという推計があります*2。 台風によってもたらされた風や高潮とTaclobanの位置関係を示した図が下記のものです*3。 風を示す矢印が反時計回りに回転し、島の上にある台風の中心に吹き込んでいます。 台風30号による風と高潮(Surge)の高さ(m) 高潮は台風による2つの効果(「吸い上げ効果」と「吹き寄せ効果」)によって引き起こされます。 「吸い上げ効果」と聞くと、台風が巨大な掃除機のようになって、 海面を吸い上げているような印象を受けますが、実際は海面を押す空気の力(気圧)が 台風によって低くなり、気圧の高い部分よりも海面が持ち上がることを意味します。 台風30号がフィリピン中部に上陸した11月8日、台風の中心気圧は895hPaでした。 気圧が1hPa(ヘクトパスカル)下がると海面が1cmあがると言われており、 吸い上げ効果だけでも概算で1メートル以上、海水面が高くなったものと推測されます。 一方、台風の強風で水が湾の奥の方に吹き寄せられるのが「吹き寄せ効果」です。 台風30号の際の風向きと最大風速(km/h)を示したのが以下の図です*4。 緑色の線が台風30号が通過した経路で、そこから北側では風が東から西へ、 南側では西から東へと吹きました(台風は反時計回りの渦のため)。 台風30号による風の強さと風向(推計) タクロバン付近の225km/hの風を秒速に直すと62.5m/sです。 風だけで見れば台風の経路から見て南の地域で231km/h(約64m/s)を記録した場所があります。 しかし、台風の経路の南側では、陸地から湾に向かっていく風向だったため、 湾から陸地に向かって風が吹いたタクロバン周辺とは異なり、 高潮被害

【イギリス・日本】洪水リスク予報の見せ方の違い

こんにちは。渡邉です。 今日はイギリスの洪水予報に関する話題です。 イギリスではEnvironment Agency(環境庁)がこの先3日間の 洪水の危険性をインターネット上で公表しています。 以下の ページ からアクセスでき、 地図上でこの先3日間の洪水リスクが一目で分かる形になっています。 http://apps.environment-agency.gov.uk/flood/3days/125305.aspx ↑洪水のリスクに応じて色分けされて表示されます Contains Environment Agency information © Environment Agency and database right 同ページには、洪水の発生に影響を与える気象などの条件(大雨、強風、潮位等)が サマリーとしてまとめられています。 また、図だけではなく、どの地域に洪水のリスクがあるかについて 表形式で情報提供が行われています。 1日後、2日後、3日後の洪水リスクがレベル別に表示されます Contains Environment Agency information © Environment Agency and database right 一方、日本にも、災害に結びつくような激しい現象が 発生する可能性のあるときに前もって(24時間から2~3日先)発表される情報があります。 気象庁が発表する「気象情報」と言われるもので、全国、地方、 都道府県(北海道と沖縄はより細かい区分)という階層で今後の見込みが発表されます。 気象情報は以下の ページ からアクセスできます。 アクセスすると開く画面は「全般気象情報」(全国用)なので、 「地方」や「府県」を選択すると該当地方の情報が入手できます。 http://www.jma.go.jp/jp/kishojoho/ 「全般気象情報」(気象庁ホームページより) 気象庁の「気象情報」も、どこでどのような災害が起こりうるかを示しています。 実質的な内容は、イギリスの環境庁のウェブサイトと概ね同様と言えます。 ただし、日本の場合は洪水等の被害が予測される

【オランダ】水害を引き起こす可能性のある雨量の目安

こんにちは。渡邉です。 「オランダ」と聞いてイメージするのは、風車、運河、チューリップ、 ミッフィー、自転車といったところでしょうか。 ドラッグやアムステルダムの飾り窓をイメージされる方もいるかもしれません。 さて、私が住むロッテルダムの郊外にキンデルダイクという世界遺産に登録された地区があり、 そこでは19基の風車群を見ることができます。 キンデルダイクの風車資料館。中に入ることができます オランダの国名は英語ではThe Netherlandsと書きますが、これは「低い土地」という意味で、 風車は低い場所から水を排水するために利用されてきました。 国土の約1/4が海抜0m以下のオランダは、水害と切っても切り離せない国です。 オランダの災害史上に残り、その後の治水対策を方向付けたのが1953年の水害です。 低気圧によって北海沿岸で高潮が発生し、甚大な被害が生じました。 オランダでは高潮による水害の他、降った雨が処理しきれず水害が起こる いわゆる内水氾濫も問題となります。 では、どの程度の雨が降ると、ここオランダでは災害が起こりはじめるのでしょうか。 先週参加したUNESCO-IHEでの会合で研究者にこの問いを投げかけてみたところ、 1日で100ミリの降雨となると何かが起こり始めるとこのことでした。 理論で厳密に裏付けられた数字ではなく、非常に経験的なものだと思いますが、 「1日100ミリ」という閾値は、どの程度の雨量がオランダでは危険かを知る 貴重な手掛かりになります。 なお、水害に結びつく可能性のある雨量はそれぞれの場所によって異なります。 お住まいの地域で、災害が起こりうる雨量を事前に把握しておくと、 雨量に関する気象予測から、地域にとっての危険性を読み解くことが可能となります。

【日本】「都市型水害」の「都市」の意味を考える

こんにちは。渡邉です。 都市型水害が都市部での豪雨とセットで語られることが多いですが、 そもそも「都市」とは何でしょうか? ここに一つの個人的なエピソードがあります。 2000年9月の東海豪雨で、私の実家がある愛知県西枇杷島町(現在の清須市)で 洪水被害が発生しました。旧西枇杷島町は名古屋市の北西部に位置し、 名古屋駅からJRで4分足らずで着くことのできる住宅街です。 当時私は東京で大学生をしていましたので、実家の被災はテレビ画像で確認しました。 ヘリコプターから旧西枇杷島町が水没している映像が流れたときに、 Oキャスターが次のように語った言葉が今でも忘れられません。 「これは、都市型水害といっていいのでしょうか?」 同席したコメンテーター役の専門家は、「都市型水害と言っていいと思います」と 答えていましたが、Oキャスターが戸惑ったのにはそれなりの理由があります。 旧西枇杷島町は人口16,500人程度、2キロ四方の小さな町で、 「町」という行政単位でみると人口密度の高さは全国でも一・二を争う程のものでした。 ところが、「都市」と聞いてイメージするようなビル群などは一切なく、 戸建ての住宅や、アパート、低・中層のマンション、工場、倉庫、 畑、水田などがヘリコプターからの空撮画像に映っていたわけです。 「人口が集中した商業集積地=都市である」という頭だったため、 Oキャスターはこの街を「都市」に含めてよいのだろうかと躊躇したのかもしれません。 この例のように、「都市型水害」というと、知らず知らずのうちに 一定規模の「都市」を視点に考えてしまうことがあります。 日本気象学会の学会誌に『天気』というものがあり、2010年3月号で「都市型水害」の 用語が解説されています。この文献は、インターネット上でアクセス可能です。 ※ダウンロードは こちら です。 http://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2010/2010_03_0043.pdf 試しに、文献の中に取り上げられている都市型水害の記述に着目しますと、 以下のとおりとなります。(下線部は渡邉による補記) ・「 高度に発達した交通網や通信網が整備され、数百万の人が生活する大都市 には、局地的な豪雨に対する脆弱性が内在し

【オーストラリア】過去の気象レーダー画像がアーカイブされている意味

こんにちは。渡邉です。 今日はオーストラリアの話題を中心にお届けします。 オーストラリアでは、気象現象が好きな人たちがグループを組んで、 嵐や大雨を文字通り追いかけています。 私がいたブリスベンにも"The Brisbane Storm Chasers"という グループ がありまして、 一度、イベントに参加したことがあるのですが、彼らがアメリカに行って 竜巻を追った記録動画を永遠に見させられたことがあります。 彼らが防災時に果たす役割は興味深いテーマなのですが、 今日は"The Weather Chaser"という サイト をご紹介したいと思います。 http://www.theweatherchaser.com/ このサイトはLangarsonという民間のIT系企業が運営しているもので、 主に衛星画像や天気の観測カメラ画像、そして気象レーダー画像を紹介しています。 彼らのサイトの特徴は、過去のレーダー画像がストックされていて、 任意の期間を選べば自由に再生して動画を見ることができる点です。 これにより、過去の災害時の降雨をレーダー上で追体験できます。 ブリスベン(Brisbane)周辺では2011年1月に記録的な大雨になり、 各地で洪水被害が発生しました。 2011年1月9日~1月13日朝9時までの96時間の降水量を示したのが 下の図です(出典はBureau of Meteorology(オーストラリアの気象庁)の こちら のPDFです)。 右側の凡例が雨量を示し、単位はミリです。 紫系統の色となっている所で大雨となり、 最も多い所ではこの期間に600ミリ以上の降雨となりました。 出典:Bureau of Meteorology, 2011 筆者により説明を一部補記 こうした図は大雨の分布を把握するのに適しています。 しかし、どのように雨雲がかかって雨を降らせたかは分かりません。 そこで役に立つのが、"The Weather Chaser"のアーカイブです。 以下のリンクをクリックすると、当時の雨雲の動きが分かります。 128km Radar Loop for Brisban

【天気予報の使い方】天気予報が当たらないと思ったら

こんにちは。渡邉です。 いつも利用する天気予報。当たらなくて困ったことはありませんか? 晴れると予測されていたのに雨が降ったり、大雨となるといわれていたのに小雨になったり。 こうしたご経験はどなたもお持ちかと思います。 現在の天気予報はコンピューターによる計算結果を利用して作られますが、 まだまだ技術的な限界があり、予測と現実の間に差が出てしまうことが多々あります。 こうした予測と実況のずれという課題。これに対して気象予報の現場で 取られている方法の1つが気象レーダーによる実況監視です。 実際の降雨が、予想よりも早いのか・遅いのか、雨の強さが予想よりも強いのか・弱いのか、 どこで雨雲が発達しているのかなどがチェックされます。 ↑レーダーを見ればどこで雨が降っているのかや 雨の強さが一目瞭然で分かります 「高解像度降水ナウキャスト」(気象庁ホームページより) この方法は、気象情報の一般の利用者の方にも有効です。 大雨の可能性は天気予報の中で伝えられます。 キーワードとしては、「大気の状態が不安定」であったり、「上空の寒気」などです。 その他、「停滞した前線」、「動きの遅い台風」、「多いところで○ミリ」、 「南からの湿った風」なども、実際に何がどこで起こるかはおいておいて、 大雨があるかもしれないぞと気象キャスターがにおわせる常套句です。 こうしたキーワードを耳にしたときは、「『何かあるかも』というのであれば」と思って 気象レーダーをこまめに確認し、いつ雨が降り出すのか(降り出さないのか)、 大雨になるのか(ならないのか)などを把握するとよいと思います。 天気予報が当たらないことがあるので、気象レーダーを併せて見るのが 天気予報のより賢い使い方と言えるかもしれません。 なお、実際に気象レーダーを見る時は、昨日の ブログ で書いた通り、 ただ「見る」のではなく、影響を「見極める」必要があるというのが私の持論です。 この「見極め方」は今後シリーズでご紹介をしていきます。