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【日本】「都市型水害」の「都市」の意味を考える

こんにちは。渡邉です。

都市型水害が都市部での豪雨とセットで語られることが多いですが、
そもそも「都市」とは何でしょうか?

ここに一つの個人的なエピソードがあります。

2000年9月の東海豪雨で、私の実家がある愛知県西枇杷島町(現在の清須市)で
洪水被害が発生しました。旧西枇杷島町は名古屋市の北西部に位置し、
名古屋駅からJRで4分足らずで着くことのできる住宅街です。

当時私は東京で大学生をしていましたので、実家の被災はテレビ画像で確認しました。

ヘリコプターから旧西枇杷島町が水没している映像が流れたときに、
Oキャスターが次のように語った言葉が今でも忘れられません。

「これは、都市型水害といっていいのでしょうか?」

同席したコメンテーター役の専門家は、「都市型水害と言っていいと思います」と
答えていましたが、Oキャスターが戸惑ったのにはそれなりの理由があります。

旧西枇杷島町は人口16,500人程度、2キロ四方の小さな町で、
「町」という行政単位でみると人口密度の高さは全国でも一・二を争う程のものでした。

ところが、「都市」と聞いてイメージするようなビル群などは一切なく、
戸建ての住宅や、アパート、低・中層のマンション、工場、倉庫、
畑、水田などがヘリコプターからの空撮画像に映っていたわけです。

「人口が集中した商業集積地=都市である」という頭だったため、
Oキャスターはこの街を「都市」に含めてよいのだろうかと躊躇したのかもしれません。

この例のように、「都市型水害」というと、知らず知らずのうちに
一定規模の「都市」を視点に考えてしまうことがあります。

日本気象学会の学会誌に『天気』というものがあり、2010年3月号で「都市型水害」の
用語が解説されています。この文献は、インターネット上でアクセス可能です。
※ダウンロードはこちらです。
http://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2010/2010_03_0043.pdf

試しに、文献の中に取り上げられている都市型水害の記述に着目しますと、
以下のとおりとなります。(下線部は渡邉による補記)

・「高度に発達した交通網や通信網が整備され、数百万の人が生活する大都市には、局地的な豪雨に対する脆弱性が内在している」(p. 43)
・「繁華街や地下街での浸水による被害」(p. 43)
・「新たなタイプの水害が、高度成長期における都市化に伴う宅地開発に起因して多発」(p. 43)
・「宅地化は、地方中核都市では・・・低平地や川沿いに、・・・大都市では郊外から水田地帯へ開発が進んだ。」(p. 43)
・「1960年代から日本の各地の新興住宅地で水害が多発する」(p. 44)

都市の人口規模やインフラに力点が置かれた説明がある一方で、
宅地化をキーワードにした説明もあり、両者は混在していると言えます。

文献にはこのほか、都市型水害の例として、東海豪雨の時の名古屋市(p. 44)、
長崎豪雨の際の長崎市(p. 44)、2008年に大雨の被害を受けた金沢市(p. 44)、
福岡豪雨の際の福岡市(p. 44)などが挙げられています。

これらの例はいずれも政令指定都市や県庁所在地などです。

文献の中には、栃木県鹿沼市のアンダーパスの冠水の例(p. 45)も紹介されていますが、
全体としては県庁所在地以上の都市を対象とした記述となっており、
都市型水害は中規模・大規模な都市の水害であるというメッセージが
意図せずに発信されていると言えなくもありません。

さて、冒頭で「都市とは何か?」という問いを立てました。

学問や切り口によってさまざまな定義の仕方が可能なわけですが、
「都市型水害という概念に含まれる『都市』とは何か」と問いを改めれば、
より具体的な答えを得ることができます。

「都市型水害」という概念に含まれている「都市」とは、簡単に言うと、
コンクリート舗装や水田の宅地化などによって雨水の浸透や貯留という機能が失われ、
降雨がそのまま排水されることで河川などの急激な増水に結びつきやすい場所のことです。

宅地化という文脈から都市型水害を考えれば、旧西枇杷島町で起こった水害は
まぎれもなく「都市型水害」です。

「都市型水害」という用語を用いる際には、都市の大小に紛らわされることなく、
洪水の発生過程に意識的に注目する必要があるのかもしれません。


↑「都市型水害」は洪水の発生過程の話として理解します