こんにちは。渡邉です。
前回のブログ(リンクはこちら)では、「予測困難な事象」といわれている
局地的・突発的豪雨に対してナウキャスト予報はある程度できていることを指摘しました。
それでは、こうした情報がうまく伝達されれば問題は解決するのでしょうか?
今日はその点に関する見方を整理します。
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■「情報の伝達」という課題/「情報の伝達」にまつわる課題
「局地的で突発的な大雨や土砂災害の危険性が直前に予想されうるのであれば、その情報を正しく伝達することこそ現状の課題である」と見ることもできます。
国の議論の方向性、特に消防庁の検討会はその点を強調していると言えます(「突発的局地的豪雨による土砂災害時における防災情報の伝達のあり方に関する検討会」という名称からも明らかです)。
一方で、防災情報の伝達には特有の困難さがあることを研究者は指摘しています。少し概念的な内容になるので、引用する前にまずは防災情報の具体例から話を始めたいと思います。
大雨が予測される場合、気象庁から様々な情報が発表されます。災害が起こる恐れのある時には「注意報」、重大な災害が起こる恐れのある時は「警報」、重大な災害が起こる恐れが著しく大きい時は「特別警報」といった具合です。また、警報が発表されている状態で数年に一度の大雨が観測又は解析された際には「記録的短時間大雨情報」が発表されます。
なお、「記録的短時間大雨情報」は1982年の長崎豪雨災害、「特別警報」は2011年の紀伊半島の豪雨災害を受けて新設された情報で、「警報が発表されている状況下で更なる警戒を呼び掛けることが難しかった」という反省から生まれました。
土砂災害の危険性が高まった場合には、気象庁と都道府県が共同で「土砂災害警戒情報」を公表します。また、土砂災害の危険性を5キロ四方毎に示す「土砂災害警戒判定メッシュ情報」も気象庁のホームページで確認することができます。
河川の増水に関しては、一部の河川を対象として「指定河川洪水予報」が行われ、予測される水位や実況に合わせて「はん濫注意情報」、「はん濫警戒情報」、「はん濫危険情報」、「はん濫発生情報」が発表されます。洪水予報のこうした表現については「市町村や住民がとるべき避難行動等との関連が理解しやすいように」2007年に見直され、同年以降順次施行されました*1。
気象庁のホームページでは、上記の情報の他、「解析雨量」やアメダスで観測された「降水量」、雨雲の動きを示すレーダー、今後の雨雲の動きに関するナウキャスト情報などが確認できるページもあります。
説明を最小限にする形で災害情報のいくつかを列挙しましたが、これらの情報のうち、実際の災害発生時に参照される情報は人によって異なります。今現在でも入手可能な災害情報が思いのほか多いと感じられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
さて、災害情報の伝達に関する研究者の指摘に話を戻したいと思います。
災害情報学と自然災害科学を専門とする静岡大学防災総合センターの牛山素行教授は著書の中で次のように述べています。
先ほど列挙した気象庁等の発表する情報に当てはめて言えば、種々の反省を踏まえて改善された情報であっても、利用者側が知らなかったり、参照しようという意向が利用者側になかったりするのであれば、それらの情報は伝わることも、役に立つこともありません。
こうした指摘を踏まえると、「情報の伝達ができさえすればうまく行く」という前提はあまりに楽観的であることが浮き彫りになってきます。
では、どのような方法があるのでしょうか。
(「気象情報の有効利用のための3つのポイント」に続く)
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(参考文献)
*1:洪水予報の発表形式の改善について(気象庁報道発表資料)
http://www.jma.go.jp/jma/press/0704/11a/kouzui.html
*2:Anderson-Berry, L. J. (2003). Community vulnerability to tropical cyclones: Cairns, 1996–2000. Natural Hazards, 30(2), 209-232. doi: 10.1023/A:1026170401823
前回のブログ(リンクはこちら)では、「予測困難な事象」といわれている
局地的・突発的豪雨に対してナウキャスト予報はある程度できていることを指摘しました。
それでは、こうした情報がうまく伝達されれば問題は解決するのでしょうか?
今日はその点に関する見方を整理します。
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■「情報の伝達」という課題/「情報の伝達」にまつわる課題
「局地的で突発的な大雨や土砂災害の危険性が直前に予想されうるのであれば、その情報を正しく伝達することこそ現状の課題である」と見ることもできます。
国の議論の方向性、特に消防庁の検討会はその点を強調していると言えます(「突発的局地的豪雨による土砂災害時における防災情報の伝達のあり方に関する検討会」という名称からも明らかです)。
一方で、防災情報の伝達には特有の困難さがあることを研究者は指摘しています。少し概念的な内容になるので、引用する前にまずは防災情報の具体例から話を始めたいと思います。
大雨が予測される場合、気象庁から様々な情報が発表されます。災害が起こる恐れのある時には「注意報」、重大な災害が起こる恐れのある時は「警報」、重大な災害が起こる恐れが著しく大きい時は「特別警報」といった具合です。また、警報が発表されている状態で数年に一度の大雨が観測又は解析された際には「記録的短時間大雨情報」が発表されます。
なお、「記録的短時間大雨情報」は1982年の長崎豪雨災害、「特別警報」は2011年の紀伊半島の豪雨災害を受けて新設された情報で、「警報が発表されている状況下で更なる警戒を呼び掛けることが難しかった」という反省から生まれました。
河川の増水に関しては、一部の河川を対象として「指定河川洪水予報」が行われ、予測される水位や実況に合わせて「はん濫注意情報」、「はん濫警戒情報」、「はん濫危険情報」、「はん濫発生情報」が発表されます。洪水予報のこうした表現については「市町村や住民がとるべき避難行動等との関連が理解しやすいように」2007年に見直され、同年以降順次施行されました*1。
気象庁のホームページでは、上記の情報の他、「解析雨量」やアメダスで観測された「降水量」、雨雲の動きを示すレーダー、今後の雨雲の動きに関するナウキャスト情報などが確認できるページもあります。
説明を最小限にする形で災害情報のいくつかを列挙しましたが、これらの情報のうち、実際の災害発生時に参照される情報は人によって異なります。今現在でも入手可能な災害情報が思いのほか多いと感じられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
さて、災害情報の伝達に関する研究者の指摘に話を戻したいと思います。
災害情報学と自然災害科学を専門とする静岡大学防災総合センターの牛山素行教授は著書の中で次のように述べています。
「災害情報をどんなに『使いやすく』、『分かりやすく』、『高精度に』したところでも、その災害情報が利用者に認知され、参照意向を持たれなければ、伝わることすらままならず、機能も発揮しない。」(『豪雨の災害情報学』、2008年、p. 157)災害情報の充実が必ずしも有効ではないことは海外の研究者も言及しています。例えばオーストラリアで災害時の気象情報の利用について研究し、現在はオーストラリアの気象庁(BOM)で減災と災害対応のコーディネーションに関するプログラムの責任者を務めるAnderson-Berryは、災害情報が利用者によって「内部化」される必要があるとしています*2。
先ほど列挙した気象庁等の発表する情報に当てはめて言えば、種々の反省を踏まえて改善された情報であっても、利用者側が知らなかったり、参照しようという意向が利用者側になかったりするのであれば、それらの情報は伝わることも、役に立つこともありません。
こうした指摘を踏まえると、「情報の伝達ができさえすればうまく行く」という前提はあまりに楽観的であることが浮き彫りになってきます。
では、どのような方法があるのでしょうか。
(「気象情報の有効利用のための3つのポイント」に続く)
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(参考文献)
*1:洪水予報の発表形式の改善について(気象庁報道発表資料)
http://www.jma.go.jp/jma/press/0704/11a/kouzui.html
*2:Anderson-Berry, L. J. (2003). Community vulnerability to tropical cyclones: Cairns, 1996–2000. Natural Hazards, 30(2), 209-232. doi: 10.1023/A:1026170401823