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【災害と気象情報 vol.5】気象当局と自治体のコンセンサスで導き出す洪水予報

こんにちは。渡邉です。

昨日のブログに引き続き、気象情報の使われ方に焦点を当てたいと思います。
今回も 検討の対象とするのは個人ではなく自治体です。

前回は、日本の自治体が気象情報などを使うときは「情報収集」の側面が
強くなりがちであることを述べました。

今日はその点を発展させながら、日本とは別のやり方を行っている
オーストラリアの自治体の例をご紹介します。

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■洪水予報と「コンセンサス・ビュー」
気象情報や洪水予報といった情報のやり取りを見ると、日本の場合、気象台等が「発信者」、情報の利用者である自治体は「受信者」といった関係性を見い出すことができます。情報の流れを矢印で示せば、発信者から受信者へ向いており、それは一方通行な流れです。

こうした関係性ではなく、情報を利用する自治体の側と気象当局が対等のレベルに立ち、それぞれの知見を持ち寄って予報を作り上げていくプロセスがオーストラリアの自治体で取られています。

オーストラリア北東部のクイーンズランド州に位置するCentral Highlands Regional Councilという自治体では、2010年12月末から2011年1月上旬にかけて発生した洪水の際、地元の水文学者を災害対応のチームに招き、地域の降水状況や出水の様子を郊外に住む農家や居住者に電話で確認しました(註:オーストラリアは国土が広いので、雨量や水位の十分な観測網がありません。このため電話で雨量などを確認するという対応がとられています)。

こうして得られた情報に加え、過去の洪水の発生条件との比較などを基に自治体独自の見解がまとめられ、州都ブリスベンにある気象当局の洪水予報担当者と予想される最高水位に関しての協議が行われました。このような方式が採用されるようになった契機は2008年に同地を襲った水害です。この時の洪水予報が大きく外れ、気象当局の予報精度に対して地元から深刻な懸念が提示されたことが踏まえられています。災害対応に当たった自治体の首長はこうして導き出された水位の予測は「コンセンサス・ビュー」(a consensus view/合意された予測)であると述べ、この時の対応を後日振り返って高く評価しています。

このほか、同じくクイーンズランド州のGoondiwindi Regional Councilという自治体では、自治体独自の洪水予報モデルを実際の大雨の際に走らせ、得られた結果をもとに気象当局の予報は過大であると判断して対応にあたった例もあります。

気象情報というよりも洪水予報を主な対象として紹介してきましたが、気象情報の利用者として一般に理解される自治体側が独自の根拠に基づいて予報を使う姿を垣間見ることができます。これは、情報の「発信者」・「受信者」という枠には収まらないあり方と言えるのではないでしょうか。

(「情報を能動的に使いこなす重要性」に続く)

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(出典・参考情報)
・Central Highlands Regional Councilに関する記載及び"a consensus view"の発言の引用は以下の資料p.2593から行っています。
Queensland Floods Commission of Inquiry. (2011). Transcript of proceedings (Day 29: 25 May 2011, Emerald). Brisbane, Australia: Queensland Floods Commission of Inquiry.
http://www.floodcommission.qld.gov.au/__data/assets/pdf_file/0017/8351/2011-05-25-QFCI-Day-29-Emerald.pdf
・Goondiwindi Regional Councilに関する記述については、以下の資料のp. 1174などをご覧ください。
Queensland Floods Commission of Inquiry. (2011). Transcript of proceedings (Day 13: 3 May 2011, Goondiwindi). Brisbane, Australia: Queensland Floods Commission of Inquiry. 
・オーストラリアの事例については筆者が修士論文で利用したケースを紹介しています。