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【フィリピン・オーストラリア】「津波のような高潮」と「内陸部での津波」

こんにちは。渡邉です。

昨日のブログでは、2013年の台風30号(ハイヤン)を例に、高潮について紹介しました。

高潮と津波は発生の原因が異なります。前者は気象条件によってもたらされますが、
後者は改めて指摘するまでもなく地震が原因です。

こうした根本的な違いがあるのですが、「津波(tsunami)」という言葉は
しばしば「高潮」や「洪水」と関連付けて扱われます。

例えば、ハイヤンの報道*1を見てみますと、「津波のような高潮」
( a tsunami-like storm surge)という言葉が出てきます。

また、オーストラリアのクイーンズランド州の内陸部にあるトゥーウォンバ(Toowoomba)で
集中豪雨によって2011年に起こった急な洪水は、「内陸部の津波」(inland tsunami)として
現地メディア*2で報道されました。
内陸部での津波と表現した報道ページ










この、「内陸部の津波」という言葉はオーストラリアで広く受け入れられ、
例えば増水の様子を個人で記録したYou Tube動画のタイトルにもなっています*3。

この他、「内陸部の津波」という言葉は、洪水の原因等を究明するために
クイーンズランド州政府が設置した委員会でも引用される*4など、
公の場で言及されたこともあります。

これら「津波のような高潮」や「内陸部の津波」は、用語の正確な意味からすれば
グレーかアウトなわけです。

ただし、災害を伝える場面では、時として正確さを犠牲とした表現が求められるのも事実です。

フィリピンの台風30号・ハイヤンのケースでは、「『高潮(storm surge)』ではなく
『津波(Tsunami)』という形で避難が呼び掛けれていたとしたら、人々は高い場所へと避難し、
人的な被害が防げたのではないか」という指摘が地元の議員からなされています*5。

同様の指摘は、毎日新聞の「フィリピン:『津波』なら逃げた 言葉の壁、被害を拡大」という
記事でも報告されています。

その記事の要約によれば、「地元語やタガログ語に高潮を示す言葉が無く、
テレビ等で使用された『ストームサージ』の意味が的確に伝わらずに
避難しなかった事例が多く発生」したとのことです*6。

なお、被災地となったタクロバンは、「台風常襲地帯ではあっても、
これまで顕著な高潮被害が発生してこなかった」と言われており*5、
このことも「津波なら逃げた」ということの背景にあるものと考えられます。

さて、災害時の情報伝達は、正確な情報を伝えることに力点が置かれます。

これを原則として考えれば、「高潮」を「津波」と言ったり、「集中豪雨による洪水」を
「内陸部での津波」と表現したりするのはNGな訳です。

その一方で、「伝わってこその防災情報」という観点から見れば、
「津波のような高潮」や「内陸部での津波」といった表現や、
「高潮を津波と言ってほしかった」という訴えから学べることもあるのではないでしょうか。


(引用文献)
*1:http://www.reuters.com/article/2013/11/16/us-philippines-typhoon-mayor-idUSBRE9AF04720131116
*2:http://www.abc.net.au/news/2011-01-11/toowoomba-swamped-by-deadly-inland-tsunami/1900720
*3:https://www.youtube.com/watch?v=5BZNHN4yfZU
*4:http://www.floodcommission.qld.gov.au/__data/assets/pdf_file/0004/778/2011-02-10-qfci-directions-hearing.pdf のp.1-2
*5:https://ph.news.yahoo.com/cristina-gonzales-recounts--yolanda--experience-075527669.html
*6:国土交通省作成資料「台風 30 号(フィリピン)の被害概要について」 
http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/r-jigyouhyouka/dai04kai/siryou6.pdf