こんにちは。渡邉です。
中小河川の危険度を知る(前回のブログ)に続いて、
比較的大きな河川の危険度を知る方法をまとてみました。
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■流域の大きな河川の雨量に対する対応能力を知る
中小河川の大雨に対する弱さを把握する際には、河川管理の計画で用いられているように、流域内の雨量計で「○ミリ」(先に例として挙げた神田川の場合は50ミリ(護岸工事が未整備のところで30ミリ))という基準から判断することができました。
ところが、流域面積の大きな河川になってくると、流域内のある一部分では大雨となっても、他の部分ではそれほど雨量がまとまらないという状況が起こることがあります。このため、大きな河川では、流域で平均した雨量(流域平均雨量)が用いられます。なお、「流域」がどこを指すのかは河川管理者のホームページや河川整備基本方針、河川整備計画などを見ると地図で確認することができます。
実際にどの程度の流域平均雨量で被害が発生しているかを知ると、雨量に対する河川の弱さを把握することがある程度できます。
過去の主な水害時の流域平均雨量については、「河川整備基本方針」や「河川整備計画」にまとめられていることがあるので、国土交通省のホームページ*1から調べてみます。例えば多摩川の場合は以下のような資料を入手することができます*2。
こうした資料を見るときは、数字を細かく追わず、ある程度大まかに把握します。この資料から、「多摩川流域の平均雨量で2日間に250ミリを超えてくると『主要』と言われる洪水が発生する可能性がある」と見ることができます(この数字以下でも各種の条件によって被害が発生する可能性があります)。
「洪水予報指定河川」*3や「水位周知河川」*3の場合、洪水ハザードマップが前提とする雨量は、「計画降雨」と呼ばれる雨量です。
計画降雨とは、河川の整備目標を導き出す時に利用する雨量であり、多摩川の場合は2日間で457ミリが想定されています*4。この規模の降雨によって発生する流量をどう安全に流すかに基づいて河川の整備が計画されるという仕組みになっています*5。
ただし、現状では河川の整備が目標に追いついていないので、目標の算出に利用した降水(計画降雨)が今の段階で実際に発生した場合には浸水被害が発生します。その浸水状況をシミュレーションして図に示したものが洪水ハザードマップであるといえます(シミュレーションの仕方に関してはハザードマップごとに多少異なる場合があるので、浸水想定図の前提条件を確認して下さい)。
このため、被害発生の参考となる流域平均雨量を知るには過去の災害履歴を利用し、計画されている降雨に対する現状の弱さを把握するにはハザードマップを参考とするといった使い分けが考えられます。
なお、流域平均雨量については、流域内のそれぞれの雨量計の値をある一定エリアの雨量と見立てて算出する方法などがありますが、ここでは解説を省略します。
ちなみに、大雨による洪水が予想されるときに流域の平均雨量をつかむには、洪水予報指定河川の場合は洪水予報の中身を見ます。閲覧は気象庁の「指定河川洪水予報」のページ(こちら)から可能です。以下の例は平成26年台風18号の際に静岡県の菊川を対象として実際に発表された洪水予報の情報ですが、「(雨量)」を見るとこれまでの流域平均雨量が295ミリ、今後の見込みの流域平均雨量が50ミリであることがわかります(洪水予報の詳しい使い方についてはいずれまた説明を加える予定です)。
(「土砂災害警戒情報の発表基準線と2つの雨量から地域の弱さを見る」に続く)
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(出典等)
*1:国土交通省 河川整備基本方針・河川整備計画
http://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/seibi/
*3:洪水予報指定河川と水位周知河川は以下のページで確認できます。
国土交通省 川の防災情報 「洪水予報・水位周知河川」全国地図
http://www.river.go.jp/nrpc0501gDisp.do
なお、上記の地図は細かい部分が見づらいので、以下のページからたどれる一覧表も参考にします。
国土交通省 浸水想定区域図・洪水ハザードマップ
http://www.mlit.go.jp/river/bousai/main/saigai/tisiki/syozaiti/
*4:国土交通省 京浜河川事務所 浸水想定区域図
http://www.ktr.mlit.go.jp/keihin/keihin00194.html
*5:補足的な説明です。
浸水想定区域図には、「水防法施行規則第2条第2項に基づき『浸水想定区域の指定の前提となる降雨が計画降雨であること』を明示」しなければいけません。(国土交通省他「浸水想定区域図作成マニュアル(改訂版)」、p. 23)。この場合の「計画降雨」とは、「河川法施行令(昭和40年政令第14号)第10条の2第2号イに規定する基本高水の設定の前提となる降雨」を意味します(同マニュアル、p.1)。 そして、この「基本高水」(きほんたかみず)とは、「河川整備基本方針の中で決定される洪水防御の計画の基本となる流量のうち、計画の規模の降雨が発生した場合に、洪水防御の基準となる地点で発生する流量を指します。この流量を基準として、洪水の防御の計画を立案するもの」です(国土交通省山形河川国道事務所河川学習システム編集部編「最上川電子大辞典」による)。つまり、「基本高水」は、どの規模の洪水に備えようとしているかを示す目標値です。この基本高水の流量を引き起こす雨量が「計画降雨」であり、洪水ハザードマップに明記が義務付けられている、という訳です。
中小河川の危険度を知る(前回のブログ)に続いて、
比較的大きな河川の危険度を知る方法をまとてみました。
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■流域の大きな河川の雨量に対する対応能力を知る
中小河川の大雨に対する弱さを把握する際には、河川管理の計画で用いられているように、流域内の雨量計で「○ミリ」(先に例として挙げた神田川の場合は50ミリ(護岸工事が未整備のところで30ミリ))という基準から判断することができました。
ところが、流域面積の大きな河川になってくると、流域内のある一部分では大雨となっても、他の部分ではそれほど雨量がまとまらないという状況が起こることがあります。このため、大きな河川では、流域で平均した雨量(流域平均雨量)が用いられます。なお、「流域」がどこを指すのかは河川管理者のホームページや河川整備基本方針、河川整備計画などを見ると地図で確認することができます。
実際にどの程度の流域平均雨量で被害が発生しているかを知ると、雨量に対する河川の弱さを把握することがある程度できます。
過去の主な水害時の流域平均雨量については、「河川整備基本方針」や「河川整備計画」にまとめられていることがあるので、国土交通省のホームページ*1から調べてみます。例えば多摩川の場合は以下のような資料を入手することができます*2。
多摩川の主要洪水と洪水被害 |
こうした資料を見るときは、数字を細かく追わず、ある程度大まかに把握します。この資料から、「多摩川流域の平均雨量で2日間に250ミリを超えてくると『主要』と言われる洪水が発生する可能性がある」と見ることができます(この数字以下でも各種の条件によって被害が発生する可能性があります)。
■洪水ハザードマップの想定雨量との関係
以前、洪水ハザードマップから地域の弱さを読み解くことに触れました(この回のブログです)。「洪水予報指定河川」*3や「水位周知河川」*3の場合、洪水ハザードマップが前提とする雨量は、「計画降雨」と呼ばれる雨量です。
計画降雨とは、河川の整備目標を導き出す時に利用する雨量であり、多摩川の場合は2日間で457ミリが想定されています*4。この規模の降雨によって発生する流量をどう安全に流すかに基づいて河川の整備が計画されるという仕組みになっています*5。
ただし、現状では河川の整備が目標に追いついていないので、目標の算出に利用した降水(計画降雨)が今の段階で実際に発生した場合には浸水被害が発生します。その浸水状況をシミュレーションして図に示したものが洪水ハザードマップであるといえます(シミュレーションの仕方に関してはハザードマップごとに多少異なる場合があるので、浸水想定図の前提条件を確認して下さい)。
このため、被害発生の参考となる流域平均雨量を知るには過去の災害履歴を利用し、計画されている降雨に対する現状の弱さを把握するにはハザードマップを参考とするといった使い分けが考えられます。
なお、流域平均雨量については、流域内のそれぞれの雨量計の値をある一定エリアの雨量と見立てて算出する方法などがありますが、ここでは解説を省略します。
ちなみに、大雨による洪水が予想されるときに流域の平均雨量をつかむには、洪水予報指定河川の場合は洪水予報の中身を見ます。閲覧は気象庁の「指定河川洪水予報」のページ(こちら)から可能です。以下の例は平成26年台風18号の際に静岡県の菊川を対象として実際に発表された洪水予報の情報ですが、「(雨量)」を見るとこれまでの流域平均雨量が295ミリ、今後の見込みの流域平均雨量が50ミリであることがわかります(洪水予報の詳しい使い方についてはいずれまた説明を加える予定です)。
実際の洪水予報の例 (一部抜粋) |
(「土砂災害警戒情報の発表基準線と2つの雨量から地域の弱さを見る」に続く)
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(出典等)
*1:国土交通省 河川整備基本方針・河川整備計画
http://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/seibi/
*3:洪水予報指定河川と水位周知河川は以下のページで確認できます。
国土交通省 川の防災情報 「洪水予報・水位周知河川」全国地図
http://www.river.go.jp/nrpc0501gDisp.do
なお、上記の地図は細かい部分が見づらいので、以下のページからたどれる一覧表も参考にします。
国土交通省 浸水想定区域図・洪水ハザードマップ
http://www.mlit.go.jp/river/bousai/main/saigai/tisiki/syozaiti/
*4:国土交通省 京浜河川事務所 浸水想定区域図
http://www.ktr.mlit.go.jp/keihin/keihin00194.html
*5:補足的な説明です。
浸水想定区域図には、「水防法施行規則第2条第2項に基づき『浸水想定区域の指定の前提となる降雨が計画降雨であること』を明示」しなければいけません。(国土交通省他「浸水想定区域図作成マニュアル(改訂版)」、p. 23)。この場合の「計画降雨」とは、「河川法施行令(昭和40年政令第14号)第10条の2第2号イに規定する基本高水の設定の前提となる降雨」を意味します(同マニュアル、p.1)。 そして、この「基本高水」(きほんたかみず)とは、「河川整備基本方針の中で決定される洪水防御の計画の基本となる流量のうち、計画の規模の降雨が発生した場合に、洪水防御の基準となる地点で発生する流量を指します。この流量を基準として、洪水の防御の計画を立案するもの」です(国土交通省山形河川国道事務所河川学習システム編集部編「最上川電子大辞典」による)。つまり、「基本高水」は、どの規模の洪水に備えようとしているかを示す目標値です。この基本高水の流量を引き起こす雨量が「計画降雨」であり、洪水ハザードマップに明記が義務付けられている、という訳です。