今までの日本の防災行政では、自宅が災害に巻き込まれて危険かの
読み取りや判断は住民に任せてきた。
「洪水ハザードマップの中から自宅や自宅周辺の浸水深を読み取り、
各自の事情や家の構造などと照らして避難の必要性を判断してほしい。」
内閣府による「避難行動判定フロー」(下図)もこの一種だ。
地域のレベルで情報を提供し、実質的な判断は個人に委ねている。
しかし、新型コロナウィルス肺炎の蔓延を受け、
避難所へ集まる避難者の抑制が急務だ。
広域避難の文脈では、浸水区域内での垂直避難者や
浸水区域内から、自治体内の浸水しない区域への避難者をのぞいて
広域避難対象者を絞り込むという考え方も出ている(下図)。
いずれの場合も、避難者数絞り込みの実質的な成否は
個人の理解力によるのだが、何とも心もとない。
これまで自治体はハザードマップなどで面的な情報を伝えてきた。
これを改め、個人に対してもっと個別にリスクを伝えるべきではないか。
・洪水が発生するとあなたの家はどこまで浸水するか?
・どの程度の時間浸水するか?
・家で垂直避難が可能なのか?
・家で垂直避難できるときは何を想定しておけばよいのか?
・避難先としてシナリオごとにどこが考えられるか
少なくとも上のようなことを事前に伝えておく必要がある。
ポイントは具体的であること、目線が個人単位であることだ。
「面」ではなく「点」の情報を伝えなければならない。
「点」の情報提供は海外ですでに前例がある。
オーストラリアのブリスベンでは
住所単位で浸水のリスク情報を前もって伝え、
水害が発生しそうなときにも住所単位で浸水予測を出す。
これだと危険が迫る時に具体的に何をすべきかが分かる。
河川の特性などが異なるので、オーストラリアのやり方を
そのまま日本に当てはめることには無理もあろう。
しかし、コミュニケーションの発想法からは十分学ぶことができる。
オランダでは住所を入れれば最大の浸水深と発生する確率のほか、
どのような状況に直面するか、災害時に何をすべきかなどが
分かるサイトもある(下図)。
日本にも「重ねるハザードマップ」があるが、
面的な情報をピンポイントで見るレベルに留まっており、
肝心の判断は個人任せだ。
避難者数の抑制に実効性を持たせるためには
意識啓発キャンペーンの類だけに頼るのではなく、
個々に対してより具体的に何をすべきかを伝えていく必要がある。
そうした方向に大きく舵を切る時期ではないか。