スキップしてメイン コンテンツに移動

プランBのトリガーとしての危険度分布


気象庁が提供する危険度分布をどう使うかは、実態を見れば見るほど分からなくなっていく。下はある夏の未明に鹿児島県で発表された大雨警報(土砂災害)の危険度分布の例だ(気象庁のホームページより筆者が加工)。



10分刻みで情報がコロコロと変わる様子が見て取れる。

3時前から4時の間がピークで危険度の高い色(濃い紫)が各地に現れるもしばらくすると消える。黄→赤→薄い紫→濃い紫という順番では情報は出ず、場所によっては色を飛ばして濃い紫になる場所もある。

危険度分布はこのように何とも扱いにくい情報である。事前の避難の判断に活かすには、情報が頻繁に変わりすぎる場合がある。

そのような癖のある情報をどう使うのが正解だろうか。最近になって、危険度分布は手遅れも掴む情報として理解すれば良いと考えるようになった。

手遅れというと語弊があるかもしれないので言い換えてみよう。危険度分布の薄い紫や濃い紫は、問題なく避難できるという前提で作ったプランAのタイミングだけでなく、緊急避難的な行動、いわばプランBに切り替えるタイミングを掴む情報として理解すべきだ。

土砂災害の場合は、崖から離れた2階の部屋などに逃げ込むというのが緊急的な代替行動(=プランB)の例である。理想はもっと安全な場所に事前に避難することだ(=プランA)。しかし、事前に避難ができない事態も現実的に生じ得る。気象情報も常に危険を前もって伝えられるわけではない。そうした時にでも命が守れよう、プランB始動のタイミングとして危険度分布を使うのである。

しかし、防災対策の文脈の中ではプランAに重きが置かれがちである。

例えば防災情報や危険度分布と住民が取るべき行動の位置付けを説明した気象庁の資料(下記)では、危険度分布の濃い紫は「災害がすでに発生していてもおかしくない」ため、「この状況になる前に少しでも安全な場所への避難を完了しておく」と例示されている。この指摘の背景には、理想的な避難行動(プランA)がもちろん前提としてある。


だが、冒頭で見たように、いきなり赤から濃い紫になり得るのが危険度分布である。ある場合にはプランAの参考情報として危険度分布が使える場合もあるかもしれないが、別の場合には間に合わない可能性が出てくる。展開の早い遅いは雨の降り方次第だ。

危険度分布はこのような制約があるので、危険度分布さえ見ればプランAのタイミングが分かるわけではない。プランAのみを前提にする形だけではなく、プランBへの切り替えサインとしての役割も強調すべきである。危険度分布の利用価値は、プランAとプランBのタイミングを切り分けることにある。そう主張するのも言い過ぎではないはずだ。