気象情報や防災情報を伝える際のポイントは説明を多くすることだ。
「長いと読まない。だから短くする」は短絡的であり、かえって弊害を産む。
例えば河川が危機的な水位になる際に発表される洪水予報。
緊急速報メールで地域全体の携帯電話に洪水予報が強制配信されるが、
そのメッセージが長すぎるという。
メッセージの文例がこれだ。
国土交通省のページより https://www.mlit.go.jp/river/gijutsu/kinkyusokuhou/index.html |
長いだろうか?
国は令和元年に相次いだ台風を受け、緊急速報メールがもっと生かされるようにするために「文を簡潔にし、重要な情報から順に記載」するとしている。
国土交通省「河川・気象情報の改善に関する検証報告書」より抜粋 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001338241.pdf |
しかし問題は長さではない。文に中身がないことが問題なのである。
例えば緊急速報メールの「河川氾濫のおそれ」の文例をご覧いただきたい。
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(本文)
○○川の○○(○○市○○)付近で水位が上昇し、避難勧告等の目安となる「氾濫危険水位」に到達しました。堤防が崩れるなどにより浸水のおそれがあります。防災無線、テレビ等で自治体の情報を確認し、各自安全行動を図るなど、適切な防災行動をとってください。(以下略)
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これを見てすぐに避難しようと思うだろうか。
このメッセージ内容で、すぐに避難しなければと思わせるのは至難の業だ。
そもそも、説明されていない点が多すぎる。
例えば次の点には一切言及がない。
- いつごろ氾濫が発生する可能性があるか
- 災害発生までの時間的猶予はあるか
- 浸水はどこで見込まれるのか
- どの程度の浸水が見込まれるか(最大何メートルの浸水など)
- 浸水が発生するとどのような被害が起こるのか(人や建物への被害など)
- 安全行動や適切な防災行動として具体的に何をすべきか
具体的な情報が圧倒的に不足しているのである。
説明が足りなければ当然、受け手側の行動も引き出せない。
中身がないメッセージは受け手の負担を増やす。
人は危険情報を受け取った際、別の情報源で確認しようとするものだ。
これはアメリカの災害情報の研究者が指摘している点だ。
「防災無線、テレビ等で自治体の情報を確認」という呼びかけが
問題であることは言うまでもない。
伝えた情報だけで十分に判断できるように工夫するのが
追加の確認行為を低減させる近道である。
一つの情報を受け取るだけで、何がどう危険か、
いつまでに何をしなければならないか、
対応を怠ったら何のリスクがあるかなどが分かること。
そうしたレベルの情報の充実が今後望まれる。
防災情報のメッセージは短くすればいいわけではない。
情報を濃くすること。そこに本質的な解決策がある。