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【オーストラリア】具体的な行動指針まで伝える警報文の例(山火事のケース)

■はじめに 
日本の防災情報の弱いところを一つ挙げるとしたら、行政からの避難メッセージの内容だと私は思います。避難勧告などの発表時でも伝えられることはごくわずかで、よくあるパターンが発表事実をメインにしたものです。


目を海外に向けてみると、日本の行政が出す情報と量や質に大きな差があることが分かります。その違いを明らかにするために今回ご紹介したいのは、オーストラリアの山火事に対する情報発信の例です。

■ライン上に進む山火事
オーストラリア・クイーンズランド州当局の情報をご紹介する前に、現地の山火事がどう展開するかをまずは動画でご覧ください。0:22秒のところから空撮映像が流れます。そこには火災が線状になって発生している様子が映し出されています。


オーストラリアに滞在していた時に現地の人から初めて聞いた時は驚いたのですが、山火事で逃げ遅れた時にはこの火災のラインが家の周りを通過するまで安全なところにいるという方法があるそうです。このことを頭に入れながら、クイーンズランド州火災・緊急サービス(QFES)が発表した実際の予報文をご覧ください。

■2019年10月8日に発表された山火事警報
以下の訳は筆者による仮訳です。太線部は原文(こちら)に対応しています。日本に比べて優れていると考えられる点に関して、赤字で補足コメントをつけました。

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今すぐ退避:Townson(Glen Rockの山火事関連)10月8日火曜日午後2時25分現在

メディアへの注意事項:
QFESはメディアに対して本情報の対象地域に放送を行う際には、このメッセージ内容とともにスタンダード警報シグナル(SEWS)を用いてください。
→SEWSは緊急時に流されるメディア共通の警報音で、実際の音はこちらから視聴ができます。テレビやラジオなどを通じて重要なお知らせの前には住民はこの音を耳にすることになります。

山火事の警告レベル:緊急警告

クイーンズランド火災・緊急サービス(QFES)より、山火事がTownsonに接近していることをお伝えします。これから先、車の運転を行うには危険な状況になるため、今すぐ退避することが一番の安全策です。
→緊急警告の情報が発表されたことだけではなく、危機に対応するためにいつ・何をすべきかまで簡潔に伝えられています。

山火事に対するあなた自身のサバイバル計画を今すぐ実行してください。もし事前にそうした計画がなければ、あなたが取りうる選択肢の中で一番安全な策は、状況的に可能であれば今すぐ退避することです。もしあなたが退避できないのであれば、山火事から身を守ることができるシェルターを見つけてください。あなたが今回の警告の対象エリア外にいる場合、そのエリアの状況は非常に危険なため戻らないでください。
→情報を受け取る人それぞれのパターンを想定し、何をすべきか・すべきでないかを伝えています。

10月8日火曜日午後2時25分現在、危険な山火事はGlen Rock国立公園からTownsonのMulgowie Road方面に向かって東方向に移動中です。TownsonのMulgowie Roadも影響を受ける見込みです。山火事はTownson地域にも多大な影響を与えると見込まれています。
→現在の状況に加え、今後影響を受ける場所を詳しく伝えています。

該当エリアにいる人はMulgowie Roadを経由して北方向に避難してください。
→どのルートで避難すれば良いのかまで述べています。

避難所はLaidley地区の北側にあるLaidley Cultural Centreに開設されており、住所は3 Laidley Plainland Road, Laidley Northです。

状況は現在、とても危険なもので、消防隊は火災の進行を食い止めることが間も無くできなくなる可能性があります。火災が通過する地域では全ての生命にとって直接的な危険性をもたらす可能性があります。消防隊はあなたの建物を守ることができないかもしれません。消防隊があなたのところに駆けつけると期待せず、今すぐ行動してください。
→生命に危険が迫っていることを伝えるとともに、行政(消防)の力では対応できない事態に直面する可能性をあらかじめ述べています。これにより個々人の行動を促しています。

電気、水道、携帯電話のサービスは失われる可能性があります。また、道路の状況も今後数時間のうちに非常に危険なものになる恐れがあります。
→ライフラインや通信、道路状況への影響見込みも詳しく伝えることで、今避難することの重要性を示唆しています。

この地域の住む住民は煙によって影響を受け、見通しが悪くなるとともに空気も汚染されるでしょう。

もしあなたが危険な状況に直面すると判断した場合、今すぐ緊急電話(000)に連絡してください。
→特別な助けが必要な場合の方法を伝えています。

あなたがしなければならないこと
・地元のラジオ局の番組を聴く。もしくは山火事サービス(RFS)のホームページを閲覧し情報の更新を把握する
・体を保護する服を着る(例えば長袖のコットンシャツ、底の厚いブーツ)
・体の水分量を保つために水を多く飲んでおく
・呼吸器疾患がある場合には薬を手元に置いていく
→全体に共通する具体的な行動指針を示しています。以下のところでは、退避する場合、退避できない場合といったシナリオごとに対策を詳しく述べています。

退避する場合
・安全に移動するためにペットの措置を進める
・道路の閉鎖状況を確認し、家族や友人に計画する移動ルートを伝える
・重要書類や欠くことのできない品を退避時に持ち出す(例:パスポート、出生証明書、処方された薬、食料と水、体を保護する衣服)
・視界が悪い場合には注意して運転する

退避できない場合
・ペットを屋内に避難させ、革紐やゲージを利用するか安全な部屋の中に入れることで行動を抑えておく。また、水を多めに与えておく。
・バスタブ、シンク、バケツなどのような水を貯められるところに水を貯め、飲み水や消火用の水として利用できるようにしておく。
・窓とドアを閉める。ドアや仕切りの下の部分にある隙間から煙が流れ込まないように、濡れたタオルで塞いでおく。
・家の中で火の影響を避けることができる場所を選んでおく。その場所は1つ以上の出口があり、できれば煉瓦造りの建物の中で、窓やドアから遠いところがよい。最も安全な場所とは山火事が発する激しい熱から最も遠いところを指す。火が近づき去っていく過程で最も安全な場所は変わりうるので、移動できるように準備しておく。

最新情報はこれらにより入手可能
・QFESのフェイスブックページ(@QldFireandRescueService)とツイッター(@QldFES)
・地元のラジオ局からの情報。公共放送のローカル局は次のサイトで検索可能。https://radio.abc.net.au/help/offline 公共放送以外のローカルの放送局はこちらで検索可能。http://www.commercialradio.com.au/find-a-station/queensland
・山火事サービス(RFS)のウェブサイト www.ruralfire.qld.gov.au/map
→フェイスブックやツイッターで情報が更新される旨、あらかじめ伝えています(SNSで情報が更新される十分な体制が取られています)。

もっと情報が必要な時
・山火事への備えに関する知識はRFSのウエブサイトを参照のこと
www.ruralfire.qld.gov.au/BushFire_Safety
・道路の閉鎖に関する情報は、13 19 40に電話するか、以下のウエブサイトで確認
www.qldtraffic.qld.gov.au

次のお知らせは4時25分もしくは状況が変化した時を見込んでいる。
→次の情報が出される時刻や条件をあらかじめ伝えています。
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■まとめ
今回取り上げたオーストラリアの山火事警報の場合、
  • いつ・どこにいる人
  • どのような影響を受けるから
  • いつまでに何をしなければならないのか
が詳しく説明されていたと言えるでしょう。これらの情報があるのでとても分かりやすく、また、避難行動に結びつきやすい警報文と言えると思います。

この例は山火事であり、本ブログが主な対象とする水害とは文脈が異なりますが、オーストラリアの当局が住民に伝えようとしているメッセージの内容には日本の災害対策にとって参考にすべきものが多く含まれているのではないでしょうか。