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【オーストラリア】災害時の情報提供方法の特色

オーストラリア北東部、クイーンズランド州のタウンズビル(Townsville)市を中心として大規模な水害が発生しています。現地の報道によると、治水用のダムが耐えられない規模の雨が降り、非常の放流を選択せざるを得ず、タウンズビルを含め下流域で水害が発生したとのことです。 タウンズビルは人口規模にして約19万人程度の街なのですが、災害が迫った時の情報の出し方は非常に参考となります。 ここではタウンズビル市のホームページを元に、気づいた点を書き出してみたいと思います。 ■危機管理用の特設ホームページが立ち上がっている 通常の市のホームページで情報を出すのではなく、Emergency Management Dashboardという特設ページを立ち上げています。 http://disaster.townsville.qld.gov.au/ ダッシュボードでは、危機管理に関する市からのお知らせ、気象警報、道路の通行止め情報、停電の情報などを一元的に把握できます。関係機関のソーシャルメディア情報へのアクセスも整っているので、このページを中心にモニタリングしていれば現状把握や避難などの意思決定に関する情報がある程度手に入ります。道路の通行止め情報などは地図情報で参照できるので避難の際にも役立ちます。 出されている情報や影響が視覚的に把握できるデザイン 地図上に交通情報や避難所の情報がプロットされている 地図をクリックすると詳しい情報がわかる仕様 各機関のソーシャルメディアも確認可能 ■市の動きや市民への呼びかけ情報が見やすいこと ダッシュボードでは、市が災害に対して体制を取り始めたところから始まり、避難所の開設状況、土嚢用の土の無料配布に関する情報、水防用ダムの開門状況、道路の通行止め情報、市の職員の対応状況、バス運行に関する情報、水の衛生面に関するアドバイス等が逐次アップデートされています。避難に関する呼びかけや浸水に対する警報についても詳細を確認することができます。 高頻度で情報が更新されている それぞれの情報をクリックすると詳細な情報が提供される ■浸水のマップが用意できること ダッシュボードの緊急情報では、浸水被害を予測するマップへのリンクも公開されています。 https...

【提言】防災気象情報と自治体の避難情報をリンクさせるには

今日は避難基準づくりに関する現状の問題点と提言をまとめます。 ■自治体の避難基準の問題点 以前も避難勧告などの基準について記事にしたことがありますが、日本の自治体が設定する避難勧告や避難指示の基準には、気象や河川の観点から見ると「これはちょっと」というものが少なからずあります。例えば、避難勧告などのタイミングに使うべきではない情報を利用していたり、あるいは根拠が不明瞭な雨量基準が一人歩きしていたりする例です(実例を含めた関連記事へのリンクは こちら )。 なぜそうしたことが起こるのでしょうか? 避難勧告などの基準作りを行うのは自治体の役目です。基準案作りに関わる職員が気象や水文に関する知識や経験を有していれば良いのですが、そうではない場合が少なくありません。基準作りの過程で専門家や専門機関からのインプットが十分に行われないと、結果として「これはちょっと」というものが出てきてしまう訳です。 ■専門機関の協力・助言 この問題に対して、国も対策を練っています。 避難勧告などの判断基準の策定に当たっては、災害対策基本法に基づき、河川や気象などの専門機関に助言を得ることができる仕組みがあります。 内閣府防災担当が自治体向けに作成した「避難勧告等に関するガイドライン」でも、「避難勧告等の判断基準を設定する際は、これらの機関(注:河川管理者や気象官署など)の協力・助言を積極的に求める必要がある」としています(以下参照)。 内閣府(防災担当)編 平成29年1月版 避難勧告等に関するガイドライン2(発令基準・防災体制編)  より ■専門機関から知恵を借りる意義 専門機関への相談は、実務的に非常に重要な意味があります。 私が防災担当として避難勧告や避難準備情報の基準作りを進めた時は、役場の職員だけで相談していても何も進まなかったので、河川管理者(国)から担当者2名を役場に招いて打ち合わせを行いました。 河川管理者の長が参加するような改まった会議ではなく、現場レベルの担当者と膝を突き合わせて考えた場です。結論とすると、1回の打ち合わせで水位に関する基準案が固まりました。 河川管理者の担当者は過去の出水状況を示すハイドログラフを何事例か持ってきてくれました。そして、避難の呼びかけや実際の避難に要する時間を私たちに問いかけま...

【特別記事】その時、リアルタイムの防災気象情報は何を伝えていたか

2018年7月8日に高知県西部に特別警報が出る前後のタイミングで発表されていた気象情報や避難情報。それらの記録を一部保管していたので、高知県南西部の宿毛市と大月町を主な対象として当時の状況をまとめてみます。記録の羅列のみで考察は含めていません。 ■レーダー(気象庁の高解像度降水ナウキャスト( こちら )から作成) ・下の図は2018年7月未明から大雨となった高知県南西部の様子です。 ・オレンジ色、赤色、紫色の雨雲がかかっている地域に注目してみてください。大雨のエリアです。地図の中で変化する数字はアメダスで観測された10分間雨量です。 ・最初は四万十町に強い雨雲がかかっていますが、アメダスの10分間雨量で見ると5ミリ前後(1時間降れば30ミリ前後の雨)です。 ・状況が悪くなったのは3時すぎごろから。大月町、宿毛市、四万十市、四万十町にかけて伸びた南西から北東へのライン上で大雨になりはじめ、10分間雨量で10〜15ミリ(1時間降れば60〜90ミリ前後の雨)を観測。4時を挟んだ時間帯には10分間雨量で15〜20ミリ(1時間降れば90〜120ミリ前後の雨)となりました。 ・5時半ごろからは、愛媛県宇和島市や松野町にかけて南北に伸びるラインが顕著になり、宇和島市や松野町でも一時的に大雨になっていることが分かります。 ・一方、大月町や宿毛市に隣接した土佐清水市では一部を除き大雨のラインからほんの少し離れているだけでこの時間は大雨となりませんでした。 ・「発達した雨域が1つのところでほとんど動かないように見える形」は大雨を意味すると以前の記事( こちら です)で書きましたが、その形がしっかりと現れています。 ■ナウキャスト情報(気象庁の高解像度降水ナウキャスト( こちら )から作成) ・今後1時間の雨雲の様子を予報するのがナウキャスト情報です(詳しい気象庁による説明は こちら )。 ・7月8日の午前5時15分を起点として、その後の雨雲の動きを示した予想が次のものです。 ・全体的に大雨のラインは東方向に動いていき、大月町や宿毛市から強い雨雲が抜けていく予想が出ていました。 ・上のレーダーと比べてみると分かりますが、結果的には大雨のラインは東に動いていくことはありませんでした。 ・愛媛県の宇和島市や松野町あたりで5時30分前後から大雨となっ...

【特別記事】特別警報が出ている地域の方へ

特別警報が発表されているのに、 「どうせたいしたことないさ」は禁物です。 災害の危険性を素早く確認し、 身を守るための行動をとることが必要です。 ■特別警報の発表区域を調べる時にみる情報 https://www.jma.go.jp/jp/warn/ ■災害の危険性の切迫具合を調べる時にみる情報 ・土砂災害警戒判定メッシュ情報 https://www.jma.go.jp/jp/doshamesh/ ・大雨警報(浸水害)の危険度分布 https://www.jma.go.jp/jp/suigaimesh/inund.html ・洪水警報の危険度分布 https://www.jma.go.jp/jp/suigaimesh/flood.html ・河川の水位情報 https://www.river.go.jp/kawabou/ipTopGaikyo.do?init=init&gamenId=01-0101&fldCtlParty=no

【特別記事 】気象情報で現在進行中の大雨に備える

2018年7月8日ごろにかけて、「 西日本・東日本で非常に激しい雨が断続的に降り続き、記録的な大雨となるおそれ 」( 気象庁発表資料 より)があり、厳重な警戒が呼びかけられています。 大雨災害に備える上で重要なのは、大雨が起こりうる場所や時間を事前にできる限り把握することです。そのような際に非常に役に立つのが気象レーダーや今後の雨雲の動きです。 しかし、そうした便利なツールを漠然と見るだけでは、なかなか必要な情報が取りづらい面もあります。そこで今回は、レーダーや今後の雨雲の動きから大雨を見抜く方法をまとめてみたいと思います。現在進行中の大雨への備えとしてお役立てください。 ■レーダーを見る時のコツ レーダーや今後の雨雲の動きを見る時には、 大雨の形が現れていないか確認 することが重要です。 大雨の形 を具体的に説明すると、 「発達した雨域が1つのところでほとんど動かないように見える形」 です。次のイラスト図では2014年広島豪雨の際のレーダー画像を例に挙げています。3つのレーダーの図は1時間ごとの様子を示していますが、この日は1時間経っても、2時間経っても、3時間たっても発達した雨雲が同じところに次々とかかり、結果として発達した雨域が1つのところでほとんど動かないようになっています。この大雨により土砂災害が発生し、多くの人命が奪われました。 気象とコミュニケーションデザイン作成資料 大雨の形のことを念頭におきながら、2018年7月5日の雨の降り方をレーダー画像で見てみましょう。 次の動画は、雲研究者で、気象庁気象研究所研究官の荒木健太郎さんがご自身のフェイスブックのページ( こちら です)で公開したレーダーのタイムラプス画像です(ご本人の了解を得て掲載しています)。 この中で大雨になっていたところはどこでしょうか? 答えは、 強いエコー(オレンジや赤など時間雨量が多いことを示すもの) が へばりついたようにかかり続けていたところ です。西日本各地でそうした状態となりました。 ■大雨を監視するツール これまでの雨雲の様子 と、 今後の雨雲の予測 は、 気象庁のホームページ から確認ができます。 例えば「 高解像度降水ナウキャスト 」のページ( こちら です)では、 3時間前か...

【オランダ】オランダで使われていた警報伝達の手段

オランダがその歴史を通じて向き合い、そして恐れてきた災害は高潮災害です。 嵐によってもたらされた高潮は、畑や牧草地を侵食し、堤防を壊し、人々の生命や家畜などを含めた財産を奪ってきました。そのオランダでは過去どのような手段で、高潮に対する警戒を住民に呼びかけてきたのでしょうか。 ■音で合図 Schokland という高潮災害に非常に脆弱だった島(今は周りが干拓されて、陸地の中に島の面影を残しています)では、海沿いに大砲が設置されていました。この大砲は外敵を撃つものではありません。住民に高潮に対する警戒情報を伝えるためのものです。 大砲の背後には畑が広がっていますが、干拓される前は海でした 教会の横に大砲が設置されていました。この元島はオランダの水との関わりを示しているため 世界遺産 に登録されています 大砲1発は牛を避難させるタイミングの合図でした。状況が悪化した際には大砲が2発鳴らされます。これは、家財道具や貴重品をより高い2階部分へと移動させるタイミングを意味しました。 ■視覚的に合図 そして、次の写真は、19世紀後半から20世紀前半の漁村の様子を再現した Zuiderzee Museum という野外博物館で撮ったものです。これは、今風に言えば、高潮注意報・高潮警報を伝える装置です。 Stormbalの下の部分です 玉が吊るされています この日はポールの真ん中に玉が位置していました 遠くからみるとこのようなものです(出典: wikipedia ) この仕組みは、Stormbal(ストーム(嵐)ボール)と呼ばれています。高く建てられたポールの上・中・ 下どの場所に大きな玉が位置するかで危険を示しました。 玉が地面近くにある場合は平常、ポールの高さの半分のところに玉がある場合は牛を避難させるタイミング、ポールの一番上にある場合はすでに高潮が発生しているので、住民は避難せよという情報でした。沿岸沿いに堤防が設置されている場合は増水の状況が堤内からは見ることができないので、人々はこのボールの位置を頼りに判断をしました。 非常時にはStormbalの玉の位置だけではなく、教会の鐘が鳴らされたそうです。 また、Stadsomroeper(新聞などもなく、また識字率も低い時代に公的な知...

【コラム】オランダの水害対策企業のひとこと

先週、ロッテルダムで開催されたThe Resilient City( https://vencaf.nl/the-resilient-city/ )というイベントに参加してきました。 パネルディスカッション参加者の一人はオランダのエンジニアリング会社ARCADIS( https://www.arcadis.com/en/global/ )で水害対策部門を率いる人物でした。ARCADIS社はオランダが培った水害対策の技術をもとに、途上国から先進国まで文字通り世界中で活躍するユニークな会社です。 その彼がパネルディスカッションの最後に「これだけは言っておきたい」という形で話し出した意見が興味深いものだったので、ここで紹介したいと思います。 「水害に対してテクノロジーがあれば解決するということをよく聞くが、テクノロジーの選択肢はすでに揃っている。この意味でテクノロジーはメインの解決策ではない。テクノロジーの不在が問題なのではなく、水害対策の問題はガバナンス(統治)とファイナンス(財政)だ。」 ガバナンスとファイナンス。実際には技術上の開発が待たれる分野もあるとは思いますが、技術を使う側の人・社会・制度の側の問題点がないがしろにできないことを示唆する現場からの発言と私は捉えました。

【コラム】FLOODrisk 2016: European Conference on Flood Risk Managementに参加しました

こんにちは。渡邉です。しばらくぶりの記事の更新となりました。 今週は4年に一回、ヨーロッパの都市で開催されている FLOODrisk というカンファレンスの週でした。第3回となる今回はフランスのリヨンが会場です。参加者は520名。その6割がフランス・イギリス・オランダからの参加者で、日本人は自分を含めて4名でした。 リヨン市内を流れる河川 災害情報という観点で全体会や分科会で報告された内容を見ていると、単なる河川水位や流域の内水氾濫の予測から一歩進み、「いつ・どこで・どのような危険がどの程度の確度で持って発生しうるか」という点に踏み込み、災害対策に当たる当局や一般の住民にとってより利用しやすい情報提供ができないかという方向性を垣間見ることができました。 また、サイエンス(自然科学や社会科学)と政策、あるいはサイエンスと水害対策の現場の乖離はヨーロッパでも問題視されており、それぞれの機関や個人が持つ知識や経験をいかに共有して全体の対策を進めていくかも重要な論点の一つとされていたのが印象的でした。EU全体の枠組みの中や各加盟国で試行錯誤が行われていますが、オランダはすでに各水防機関を束ねたワーキンググループをユニークな形で運用しており、この分野で一歩先を行っているようです。 ところで、オランダというと水害対策の先進地というイメージですが、「これまでの対策は不十分」と自己否定を行って、これから数十年かけて堤防網の大改造を予定しています。また、高度に整備された堤防などのハード対策で水害を抑えている為、水防関係者も水害対応の経験がない、ましてや住民はあまり水害の事を心配していないというオランダ独自のパラドックスもあります。オランダはこのパラドックスに自覚的で、先に触れた知識の共有化プロジェクトを始め、得意とする仕組みづくりの能力を生かしてシステマティックに課題を解決していこうとしています。 全体会の様子 さて余談ですが、一言で「ヨーロッパ」といっても、水害を引き起こす要因は場所によってそれぞれ異なっていました。 地中海沿岸の地方(スペイン南部、フランス南部、イタリア北部など)は短時間強雨による小中河川の急激な増水(Flash Flood)が大きな課題です。逆に北海に面したイギリス・フランス・ドイツ・オランダなどでは冬の嵐による高潮災害や...

【お知らせ】避難勧告や避難指示に関する過去の特集記事ダウンロードについて

こんにちは。渡邉です。 大雨や洪水が予測される事態に対して避難勧告や避難指示の基準をどう設けるか、どのように住民とコミュニケーションを図るかについては、特集記事として事例をもとに以前考察したことがあります。 特別警報の利用の仕方1つをとっても自治体ごとに千差万別であり、多くの事例に問題点が隠れています。今回の水害でも特別警報の扱い方などが問われていますが、平常時からすでに問題を含んでいたものが非常時に顕在化してしまったとも言えます。 また、日本の防災行政や災害時のコミュニケーションの課題として、避難勧告・避難指示を発表した事実(=例えて言えば赤信号をつけたこと)の伝達は重視されますが、避難勧告等を発表した「根拠」の部分(=なぜ赤信号をつけたか)をもとに住民の行動を促していくという視点の欠如が挙げられます。この欠点はアメリカの事例と比較した記事の中で指摘しています。 個別の記事へのリンクは以下の通りです。 これらすべての記事をまとめたPDFについては こちら からダウンロードできますので、今後の水害対策の参考としてご利用を頂ければ幸いです。 ----- 1.避難勧告等の発表基準に関する問題提起 2015年2月13日  【日本】その避難勧告の発表基準に問題はありませんか? 2015年2月14日  【日本】避難勧告等の基準を考える上での論点(愛知県A町) 2015年2月15日  【日本】内水氾濫を対象とした避難勧告等の基準に対する考察(静岡県Y市) 2015年2月16日  【日本】記録的短時間大雨情報を避難勧告のトリガーにしたケースの考察 2015年2月17日  【日本】避難勧告等の基準に大雨の特別警報をどう取り入れるか(愛知県K市) 2015年2月18日  【日本】避難勧告等の基準に大雨の特別警報をどう取り入れるか(山形県S市) 2015年2月19日  【日本】半世紀近く前に作られた基準と現行の土砂災害関係の情報をどう避難勧告基準に織り交ぜるか 2.避難勧告等の基準づくりに役立つ情報 2015年2月21日  【コラム】私が避難勧告の基準づくりに携わるとしたら真っ先に見る情報 2015年2月22日  【コラム】私が避難勧告の基準づくりに携わるとしたら2番目にやること 3.避難勧告等の発表とコミュニケーション 2...

【プレゼン】日本の防災文化は気象情報利用力で生まれ変わる

こんにちは。渡邉です。 今日はいつもと少し趣向を変えて、Preziというプレゼンソフトを使って気象情報利用力の紹介です。 以下のプレゼンテーションの題名は少し大風呂敷を広げた形ですが、全くの誤りではないだろうという思いがあるのでそのままにしました。 Preziはぐるぐる動かせるので作っていると若干酔うのと、日本語入力が不安定なのが玉にキズですが、動きがある方がやはりわかりやすいので、今後何回かのシリーズにしてみたいと思います。 (うまく見られない方はこちらからどうぞ) https://prezi.com/repqbcnbicnm/presentation/?utm_campaign=share&utm_medium=copy