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【特別記事】その時、リアルタイムの防災気象情報は何を伝えていたか

2018年7月8日に高知県西部に特別警報が出る前後のタイミングで発表されていた気象情報や避難情報。それらの記録を一部保管していたので、高知県南西部の宿毛市と大月町を主な対象として当時の状況をまとめてみます。記録の羅列のみで考察は含めていません。

■レーダー(気象庁の高解像度降水ナウキャスト(こちら)から作成)
・下の図は2018年7月未明から大雨となった高知県南西部の様子です。
・オレンジ色、赤色、紫色の雨雲がかかっている地域に注目してみてください。大雨のエリアです。地図の中で変化する数字はアメダスで観測された10分間雨量です。
・最初は四万十町に強い雨雲がかかっていますが、アメダスの10分間雨量で見ると5ミリ前後(1時間降れば30ミリ前後の雨)です。
・状況が悪くなったのは3時すぎごろから。大月町、宿毛市、四万十市、四万十町にかけて伸びた南西から北東へのライン上で大雨になりはじめ、10分間雨量で10〜15ミリ(1時間降れば60〜90ミリ前後の雨)を観測。4時を挟んだ時間帯には10分間雨量で15〜20ミリ(1時間降れば90〜120ミリ前後の雨)となりました。
・5時半ごろからは、愛媛県宇和島市や松野町にかけて南北に伸びるラインが顕著になり、宇和島市や松野町でも一時的に大雨になっていることが分かります。
・一方、大月町や宿毛市に隣接した土佐清水市では一部を除き大雨のラインからほんの少し離れているだけでこの時間は大雨となりませんでした。
・「発達した雨域が1つのところでほとんど動かないように見える形」は大雨を意味すると以前の記事(こちらです)で書きましたが、その形がしっかりと現れています。


■ナウキャスト情報(気象庁の高解像度降水ナウキャスト(こちら)から作成)
・今後1時間の雨雲の様子を予報するのがナウキャスト情報です(詳しい気象庁による説明はこちら)。
・7月8日の午前5時15分を起点として、その後の雨雲の動きを示した予想が次のものです。

・全体的に大雨のラインは東方向に動いていき、大月町や宿毛市から強い雨雲が抜けていく予想が出ていました。
・上のレーダーと比べてみると分かりますが、結果的には大雨のラインは東に動いていくことはありませんでした。
・愛媛県の宇和島市や松野町あたりで5時30分前後から大雨となったことは表現できていませんでした。

■雨量
・アメダス宿毛の1時間雨量を見ると、午前4時までの1時間で91.5ミリ、午前5時までの1時間で107.5ミリでした。
・雨のピーク時には10分間に15-20ミリという降雨が継続したことにより1時間100ミリ前後になりました。
・高知県の記録的短時間大雨情報の基準は120ミリのため(出典はこちらです)、この降雨では記録的短時間大雨情報は発表されませんでした。
・10分間雨量のデータは気象庁のページ(こちらです)からも確認できます。
出展:気象庁HP(こちら

■土砂災害警戒判定メッシュ情報(運用サイトはこちらです)


・メッシュの色の違いを平たく言えば、薄い紫色の段階は安全な場所へ逃げる最後のリードタイム、濃い紫色はすでに危険な状態です。
・10分間で15-20ミリの大雨となっているタイミングで次々と濃い紫色、つまり「極めて危険」な状態に変わっていったことが分かります。
・大月町では住民の情報によると午前4~5時の間に落石が発生したとされています(出典はFNNのニュース(こちら)です)。
・午前6時前には大月町で土砂災害が発生したとの通報が消防に寄せられています(出典はNHKニュース(こちら)です)。住宅が押しつぶされ、一人の方が亡くなられました。
・土砂災害警戒判定メッシュ情報の意味はこちらです(引用元はこちら)。

■大雨警報(浸水害)の危険度分布(運用サイトはこちら
・短時間強雨による浸水リスクを示した危険度分布の記録です。
・午前4時過ぎから「極めて危険」「非常に危険」の箇所が大月町を中心に増えていることが見て取れます。
・状況の変化がいかに急だったかが実感できます。薄紫から紫色に変わるまでの展開も10分刻みでした。
・宿毛市では「広い範囲で冠水」という新聞報道があります(こちらです)。
・NHK高知放送局のニュースによると、「56棟の住宅が床上まで水につかったほか、床下が水につかった住宅は200棟に上った」とのこと(出典はこちらです)。

・色の違いによる意味は下の通り(出典はこちら)です。

■洪水警報の危険度分布(運用サイトはこちら
・紫色はすでに危険な状態、薄紫が避難への最後のリードタイムと言うことができます。
・雨がまとまって降り出すまでは何でもなかったものが刻一刻と変化して、最後は極めて危険な状態に至りました。


・色の意味はこちらです(出典はこちら)。

■河川水位
・以下の図は宿毛市内の松田川のハイドログラフです(出典はこちら)。
・傾きに注目してください。午前5時ごろから急激に上昇し、災害対応の基準となっている水位の閾値を次々と越えています。


・最終的には、氾濫危険水位を越えたあたりでピークとなり、その後は下降して行きました。

■注意報・警報
・気象台から当時、宿毛市を対象に発表されていた注意報・警報はこちらです。
・5時11分の段階では大雨・洪水の警報で、1時間最大雨量は70ミリと見込まれていました。
・実際には雨量のところでまとめた通り、100ミリ前後の降雨が観測されました。

■土砂災害警戒情報
・大月町対象の土砂災害警戒情報は8日の午前4時(こちらです)に発表されました。
・宿毛市対象の土砂災害警戒情報は7月7日の午前7時から継続的に発表されていました(初回発表はこちらです)。

■特別警報
・同日5時50分には大雨特別警報(土砂災害、浸水害)が発表され、宿毛市も対象となります。


■避難情報
・宿毛市は8日午前5時と午前5時30分の2回に分けて避難指示を発表しています。


・8日午前5時までの発表状況は次の通りです(Yahoo!災害情報より)。

■終わりに
記録の整理にあたり、気象官署や行政、住民の方の対応を非難する意図は全くないことを最後に明記しておきたいと思います。この地域が大雨となった「その時」に一般に公開されていた情報を整理しておくことで、ソフト対策として期待される防災気象情報が現状で果たせる役割とその限界を考えていく材料となればと思いとりまとめたものです。