2005年にニューオリンズを襲い、壊滅的な爪痕を残したハリケーン・カトリーナ。この時、アメリカの気象当局はそれまで出したことのないある予報をハリケーン襲来の1日前に出していました。原文はこちらです(以下、和訳が続きます)。
ハリケーン・カトリーナの際に出された影響予報 出典 https://www.weather.gov/media/publications/assessments/Katrina.pdf |
ーーー仮訳(太線は渡邉がつけたもの)ーーー
緊急−気象メッセージ
アメリカ気象局ニューオリンズ ルイジアナ州
午前10時11分 中部標準時 2005年8月28日(日)
破壊的なダメージが予測されています。
これまでに経験したことのない強さを伴った非常に強力なハリケーンカトリーナは、1969年のハリケーン・カミールの強さに匹敵しています。
台風によって影響を受けるほとんどの地域はこの先何週間も居住が不可能になる見込みです。居住不能な期間は長引く可能性もあります。頑丈に作られた家のうち、少なくとも半数程度は屋根や壁に被害が見込まれます。切り妻造りの屋根は全て被害を受け、そうした屋根を持つ家々は深刻なダメージを負うか、破壊されることでしょう。
工業用の建物の多くはその機能を果たせなくなる見込みです。壁や屋根が部分的もしくは全体的に損傷を受けることが予測されます。木造の低層アパートの建物は全て破壊されるでしょう。コンクリートブロック造の低層アパートは壁や屋根などの損傷といったような深刻な被害は免れる見込みです。
高層のオフィスやマンションの建物は危険なほど暴風によって揺さぶられます。そうした建物のうち少数は建物が崩壊するに至る可能性もあります。全ての窓は風によって破壊されるでしょう。
暴風によって様々な物体が至るところで空を舞います。中には重いものも含まれる可能性があり、例えば家庭用の器具や軽量の車両といった可能性もあります。また、SUV車や軽トラックも暴風によって動かされるでしょう。こうした宙を舞う物体によってさらなる被害が見込まれます。人やペット、あるいは暴風の影響を受けるところにさらされた家畜などに物体がぶつかった場合は死を招く可能性もあります。
送電用の鉄塔のほとんどが破壊され、変圧施設も損害を受けるため、停電の状態は何週間か続く見込みです。水不足は現代の生活水準からすると途方もないほどの苦しみを人々にもたらすでしょう。
自然に生えている木々の大多数は折れるか根こそぎ倒れる見込みであり、一部の旺盛な木のみがそのまま残りますが、全て枯葉剤をまかれたようになるでしょう。ダメージを受けない作物はほとんどありません。暴風にさらされた状態に置かれた家畜は死亡するでしょう。
陸上のハリケーン暴風警報は、継続的な風がハリケーンの暴風基準となるか、頻繁に起こる突風がハリケーンの暴風基準以上となると今後12時間から24時間のうちに高い確率で予測される時に出されます。熱帯暴風雨や強く激しい風が吹き始めた時には、外出しようと試みないでください。
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このカトリーナの予報文のように、気象現象による影響を伝える予報をインパクト予報(影響予報)と言います。被害の様子が予め見えるので、備えや避難を後押しすると思います。
一方、日本の台風予報やその伝え方を見ると、まだまだ気象現象(風速や雨量など)の解説が中心です。
しかし、気象庁は暴風と被害の目安を示した図(下図)を用意していたり、鉄道や高速道路なども風や雨量を閾値にして運行停止や通行止めを行なっていたりするので、準備を進めていけばカトリーナのような予報を日本でも十分出せるはずです。
気象庁・風の強さと吹き方 出典 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kazehyo.html |
気象情報や防災情報で危険が伝えられても避難率が低いという課題がありますが、どんな状況に直面するかに力点を置いた予報を提供していくことが課題解決の一つの方法になりうると考えています。今後、日本でもインパクト予報が充実していくことを願っています。
※署名サイトChange.orgでインパクト予報の充実を気象庁長官に求めるキャンペーンを実施中です(こちら)。ご協力よろしくお願いいたします。